山里の記憶201


モロヘイヤうどん:坂本ミサヲさん



2017. 8. 08


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 八月八日、小鹿野町長留(ながる)にモロヘイヤうどんの取材に行った。取材したのは
坂本ミサヲさん(八十九歳)で、昔の話を聞きながら自宅前の畑で採れたモロヘイヤを使
ったうどん作りを見せていただいた。                       
 ミサヲさんはとても元気な人で、今でも自宅前の七十坪の菜園を自分で耕してたくさん
の野菜を栽培している。その数四十種類以上と聞き、驚いてしまった。自分で作った野菜
を自分で加工し、様々な料理に使っている。                    
 畑には一列のモロヘイヤが大きく育っている。その葉を摘みながら「こんなにでかくな
るんだぃね…」と笑うミサヲさん。                        

家の前には七十坪の畑があり、野菜や花を栽培している。 大きく育ったモロヘイヤを摘むミサヲさん。

 モロヘイヤはエジプトなど中近東地域が原産の野菜で、王様の野菜と言われている。そ
の名のとおり栄養価が非常に高く、効能もたくさんある。食物繊維やミネラルをたくさん
含んでいる野菜だ。モロヘイヤに含まれるカルシウムはホウレンソウの約九倍、カロテン
は約五倍、ビタミンB2やビタミンCも二倍あり、栄養価は非常に高い。また、ニラの三
倍以上のビタミンKを含んでいて、止血効果や骨粗しょう症の予防や改善が期待できる。
 美肌効果の高いビタミンCやビタミンB2、若返りのビタミンと言われるビタミンEな
どもたっぷり含まれているため、健康だけでなく美容にも効果的な野菜と言われている。

 今回取材したのはモロヘイヤを使ったうどん。モロヘイヤは軟らかい葉を収穫し、天日
でカラカラに乾燥させ、ミキサーで粉状に加工したものを冷蔵庫で保存する。必要に応じ
てうどんやおまんじゅう作りに利用している。こうして粉末にしておけばいつでも利用で
きるので便利だという。粉で使っても栄養成分には大きな変化はない。        
 さっそくミサヲさんのうどん作りを見せてもらう。冷蔵庫からうどん粉を出してボウル
にあける。「少人数だと少しだけ作るんだぃね…、昔はいっぱい作ったもんだけど…」と
言いながらモロヘイヤの粉を上から加える。塩少々を加え、水を加える。最初は菜箸でか
き混ぜ、ある程度まとまったら居間のテーブルに場所を変えてこねる。        
 八十九歳の働きもんの手が自在にうどん粉をこね、緑色の塊が出来上がる。「本当はひ
と晩冷蔵庫に置くんがいいんだけど、今日はこのままでいいやぃね…」とつぶやきながら
ビニールをかける。                               

テーブルでうどん作りをする。馴れた手つきでこねて切る。 畑の紫蘇を摘み取って「持ってけ」と言うミサヲさん。

 テーブルの上にビニールを広げ、その上に打ち粉を振る。うどんの塊を粉の上に乗せ、
小さい綿棒で平らに伸ばす。大きく伸ばした生地に打ち粉を振り、たたんで包丁で切る。
切ったうどんを伸ばし打ち粉をまぶしてくっつかないようにする。          
 一連の作業は淡々と確実に進んだ。昔からうどんぶちをやっていたというミサヲさんの
手さばきには迷いも狂いもない。鍋のお湯が沸いたので皿に盛ったうどんを投入する。煮
ている間にタレを準備する。                           
 つけ汁にはつゆの素を温める。落花生を煎って皮をむいたものが茶碗一杯出来ていた。
これをミキサーに入れ、お湯を加えてミキサーで粉々にというか汁状にする。この落花生
汁をつけ汁に加えてうどんのつけ汁にするのだ。他にキュウリの薄切りとうまい菜の煮物
をつけ汁のマシにする。豪華な昼食だ。                      
 うどんが煮上がり、ザルに上げられた。緑色のたくましいうどんだ。うどんとつけ汁と
落花生汁とマシ野菜を居間のテーブルに運び、昼食となった。            

 「さあさあ、食べてくんな」というミサヲさんの声に押されて箸を出す。お椀のつけ汁
に落花生汁をスプーンで加えると乳白色のつけ汁になる。うまい菜を入れ、更に緑のモロ
ヘイヤうどんを入れる。色がきれいだ。                      
 うどんを口に運ぶと、まずピーナツの味がくる。噛んでいるとモロヘイヤの味がジワジ
ワと出て来る。腰が強いのはモロヘイヤの粘りからなのか。口の中いっぱいにピーナツと
モロヘイヤの味が広がる。他では食べた事がない味のうどんだ。           
「ミサヲさん、旨いですよ」「そうかい、良かった、いっぺえ食べてくんな」珍しい味の
うどんを堪能した。                               

ミサヲさんがシュロの葉で作ったバッタ。見事な出来栄え。 みんなにバッタの作り方を教える。手先が本当に器用だ。

 ミサヲさんには六人ほどの仲間がいて、週に二度みんなで両神温泉に行って一日食べて
休んで話すのが楽しみだなのだと笑う。乗り合いタクシーを使って温泉に行き、千円もあ
れば一日遊べる。カラオケは一曲百円で歌えるし、料理も年寄りだから店の人が運んでく
れる。上げ膳据え膳で楽しめる。仲間とおしゃべりしているだけで楽しい。      
 健康と元気の秘訣は畑仕事にあるという。「土をいじくってるんは気分がいいんだぃ」
「百姓やってれば、ぼける暇はねえかんねぇ」と明快だ。人に安易に頼ろうとしない。素
晴らしい、見習いたい人生だ。