山里の記憶195


手前味噌の会:倉林昌子さん



2017. 2. 15


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 二月十五日から十七日までの三日間、味噌作りの取材をした。取材をしたのは小鹿野町
の「手前味噌の会」倉林昌子さん(七十歳)だった。                
 十年ほど前から味噌作りを始めたという手前味噌の会。公民館の活動から始まった味噌
作りは評判を呼び、年々会員が増え、今では六十人もの人が参加している。八人一組で合
計十一回の仕込みを行うという。今回取材したのは倉林さんがリーダーで行うグループの
味噌作りだった。一回の仕込みに四日間かかる。一日目は米と大豆を洗って水に浸ける作
業。二日目は米を蒸して麹を作る作業。三日目は大豆を煮る作業と麹の切り返し。四日目
に全てを合わせて味噌の仕込み作業。今回は二日目から四日目の作業を取材した。   

 朝十時、両神農林センターの多目的集会所に伺い、挨拶して作業を見学する。昨日洗っ
て水に浸けておいた真っ白いお米がたくさんのザルに盛られている。お米は地元産のうる
ち米で、約三十キロ使う。四角い蒸し器二台の湯が沸き、二段の蒸し器にお米を均等に入
れたものを乗せる。湯気が上がってから四十分から五十分間蒸かす。         
 ここまでの流れが忙しく、参加者のてきぱきと慣れた動きの邪魔にならないようにする
だけで精一杯だった。お米が蒸し上がるまでの時間が休憩時間で、お茶を飲みながら皆さ
んの話を聞くことができた。参加者はリーダーの倉林昌子さん以下、黒田さん、吉田さん
、辻さん、加藤さん、坂本さん、磯田さんと唯一の男性石田さんの八人。       
 手前味噌の会が発足したのは七年前だった。公民館が主催した味噌作り講習に参加した
メンバーが中心になり、自分達で好きなときに味噌を作ろうと会を発足させた。材料の米
と大豆は地元産にこだわりたいと会員があちこちから仕入れてくる。今年は初めて材料の
米と大豆を地元産でまかなうことが出来た。自分達で百キロの大豆を収穫したし、来年は
畑を倍にする予定だ。小鹿野町の産業課が六年前にこの施設を味噌作りの為に整備してく
れた事も嬉しかった。味噌作りを通して少しでも町おこしにつながればと思っている。 

ひと晩水に浸した8キロのお米を蒸し器に入れる。全員の動きが素早い。 蒸したお米を冷まして麹を作る作業。モウモウと湯気が上がる。

 四十分のタイマーが鳴った。全員でテーブルの台に蒸かしたお米を運び、冷ますために
かき混ぜる。会場全体が真っ白な湯気に覆われ何も見えなくなる。吉田さんは「メガネが
曇った!」と言ってメガネを外してしゃもじでお米をかき混ぜている。熱々のお米を四十
度まで冷ます。お風呂の湯加減程度まで冷まさないと麹菌が死んでしまうからだ。必死で
素早く作業する。温度変化と全体を確認しながら、全員で声を掛け合いながらお米を冷ま
す。底の方が熱いので上下をひっくり返す作業が続く。その日の気温によっても作業スピ
ードが変わるのでみんな真剣だ。慣れてくると手の感覚で具合がわかるという。    

 麹菌は白麹用の種菌「白銀」。五グラムくらいを昌子さんが振りかける。全員が息を詰
めるように手元を見つめる。終わると全員でペタペタと表面をなで、そして混ぜる。「麹
菌がんばれ〜って混ぜるんだぃね〜」とみんなが笑う。               
 麹菌を混ぜた米を「こうじ君」という機械に入れる。この機械が自動的に麹を作ってく
れるムロになる。何重にも布を敷き、ネットで包んだ米を入れ、中央に温度センサーのコ
ードを埋める。送風ルートを十センチほど空けて固定し、布をかけて蓋をする。    
 こうじ君には室温と品温の二つのセンサーが付いており、自動的にファンが回って品温
を保ってくれる機能がある。今の品温は四十二度、室温は二十八度と表示されている。ベ
ストなのは品温三十八度、室温二十八度で、こうじ君はその数字に近づくよう自動で調整
してくれるという優れものだ。ちなみに、八十万円ほどするらしい。         

 二日目は朝九時に集合。昨日仕込んだ米をこうじ君から出して、台上でパラパラにほぐ
す。とにかく固まりのないパラパラ状態にするために全員が全力でもむ。三十六キロもあ
る麹米の温度を一定に下げるための作業で、これもスピードが必要だ。声を掛け合いなが
ら作業が進む。塊を見つけるごとによってたかってもみ砕く。            
 麹米をひとつまみ食べてみた。ほんのり温かい麹米は少し固米だったが麹の香りがして
甘かった。これが麹になるのかと思うと、ひと晩の変化に不思議な気がした。     
 次は大豆を煮る作業。三台の圧力鍋と大鍋で大豆を煮る。大豆は二日間水を吸わせて柔
らかくなっている。バケツの大豆を鍋に入れガスに点火する。煮立って来たら泡とアクが
浮き上がるので網ですくい取る。二度沸騰させアク泡を取り除き、水を取り減らして圧力
鍋の蓋をする。ここからは圧力をかけて煮る。鍋の中は高温で蒸し煮状態になる。火を点
け、圧力の重りが動いたら弱火にして五分煮る。五分煮たら火を止めて十五分蒸らす。 
 みんな真剣に圧力鍋と格闘している。二人で一台を見るので気を抜けない。圧力鍋とは
別に大鍋でも大豆を煮ている。こちらはオーソドックスに十五キロの大豆を一時間半かけ
てじっくりと煮る。                               
 圧力鍋で煮て蒸らし終わった大豆をバケツに移す。すぐに次の大豆を入れて二回目の煮
込みに入る。同じ作業をくり返し、圧力鍋で大豆を煮る。煮終わったら先に煮た大豆を加
えてそのままひと晩浸しておく。ここまでやってやっと一段落。           
 作業が終わったら全員で後片付け。鍋や道具類の洗浄はすぐに行う。次のメンバーが使
うので完璧に洗浄しなくてはならない。幸い天気が良く暖かい日だったから良かったが、
普段であれば寒風吹きすさぶ中での作業だ。大変だろうと思うが、参加者は当然だと苦に
もしない。それだけ味噌作りに集中しているメンバーが揃っているということだ。   

 同じ日の午後三時。麹米の切り返し作業を行う。午前中で解散したメンバーが、切り返
しのためだけに三時に集まる。全員でやれば何分かで終わってしまう作業だが、その為だ
けに再集合するのも、味噌作りに責任を持っているからに他ならない。        
 こうじ君の蓋を開けると麹の香りが立つ。「ほら麹の花が咲いてるでしょ…」と昌子さ
んが言う。見ると粒々だったお米が白い粉をまぶしたようになっている。米が麹になって
きた証拠だ。これを台の上に運んで布の上でもみほぐす。全体をさらさらの状態になるま
でもみほぐす。これが切り返しだ。終わったらこうじ君に戻し、今度は蓋をしないでひと
晩寝かせる。発酵が進みすぎないようにするためだ。                

二晩水に浸した大豆を大鍋で煮る。アクと泡を取り除いている。 大豆ミンチと塩と麹を、座ブトンに膝をついて全力で練り込む。

 三日目も朝九時に集合。こうじ君から麹米を運び出し、台上でもみほぐす。品温は十一
度と冷たい。甘い香りが昨日と全く違う。食べてみると、すっかり麹になった米は更に甘
くなっていた。熱を持たないように広げられた麹米は発酵が止まる。         
 ここからは全員が手分けして最後の仕上げに奔走する。大きなタライと漬物樽をアルコ
ールで消毒する人。麹米を正確に八等分する人。鍋の大豆をバケツとザルを使って水切り
する人。大豆の煮汁は調味料や肥料になるので大切に溜めておき、後で分配する。   
 ミンサーを出して組み立てる。煮た大豆は大鍋のものと圧力鍋のものと両方並べ、半分
ずつミンサーにかける。黒田さんがスイッチを入れ、煮た大豆がミンチになって出て来る
のを大きなタライで受ける。九キロになったら秤に乗せて正確に計り、調整する。途切れ
なく続く作業は全員が起立正しく動かないと成り立たない。声を掛け合いながら八個の大
タライを大豆のミンチで山盛りにする。                      

 塩分十一%の計算式がある。(大豆+麹米)÷八十九×十一÷八で塩の量が決まる。昌子
さんと黒田さんが真剣に計算する。結果、一、七キロの塩と決まり、秤で塩を計って袋に
詰める。各自がタライの中に麹米と塩を入れて混ぜる。混ぜて練る作業を全員で行う。体
力を使う作業なので会場が一時静かになった。昌子さんは「この作業をしているから手作
りって胸を張って言えるのよね…」と言う。額に汗がにじんでいた。         
 全体を練り終わったらソフトボール大の味噌玉を作る。これは空気を抜くためのもの。
更にこの味噌玉を樽に打ちつけるように投げ込む。これも空気を抜くための作業だ。一段
毎に平らにして次の段を打ち込む。念入りに空気を抜き、最後は平らな表面に整える。 

味噌玉を作る。これを樽に打ち込み、空気を抜きながら詰める。 休憩時間に出るお茶請けがいつも楽しみだった。

 樽の内側だけをアルコール消毒し、ラップを味噌の表面にピッタリと密着させる。ビニ
ール袋に入れた塩二、三キロを平らに広げて重石にする。塩を重石に使うのは良いアイデ
アだと昌子さんは言う。黴びも少なくなるし、重みが均一にかかるのでたまりも出ないし
、後で使えるしといいことずくめなのだと笑う。麹を計ったビニール袋でフタをしてヒモ
で縛って密閉する。ここまでで味噌の仕込み一連の工程が終わった。         
 今回の取材で何より楽しかったのは休憩のお茶のみタイム。料理自慢のメンバーが持ち
寄ったお茶請けがズラリと並び、作り方や味つけなどなど話に花が咲く。見たことも食べ
た事もない料理が出て来るのがとても楽しかった。