面影画40


7月18日の面影画は藤野直美さん




描いた人 藤野栄紀さん 72歳 父                         

 栄紀さんは若い頃に宮城で大工の修行をした。気仙大工の流れを汲む大工で、結婚した時は
立派な大工職人だった。栄紀さん24歳の時、ひとつ下の智弥子さんと結婚した。     
 智弥子さんは一人娘だったので、婿に入る形になった。その頃の智弥子さんは酔仙酒造で働
いていた。おばちゃんがリンゴを商っていて、子供の頃は「智弥子ちゃんちに行くとリンゴが
いっぱいあっていいよね」などと言われる家だった。                  

 栄紀さんは東京に出稼ぎに出たこともあったが、多くは高田市内で仕事をしていた。高田の
七夕の台を作ったり、お寺さんの仕事も多かった。                   

 栄紀さんは釣りが大好きだった。毎日波を見て、今日はどこがいいなどと言って釣りに行っ
ていた。よく高田の松原で釣りをした。90センチもあるスズキや、60センチのアイナメ、
巨大なカレイも釣った。若い頃には鮎釣りもやっていた。家の鴨居にはズラリと釣り竿が並び
、高価なものも多かった。                              
 とにかく、海が大好きで釣り場の知識が豊富だった。漁師としてやっていけたのではないか
と智弥子さんは言う。「知らない人がよくお父さんの話をするんだよね、釣りの事ならあの人
に聞けって言われていたからね・・・」                        
 直美さんも言う「野良猫が父が帰ってくるとニャ〜って寄ってくるんですよ、そうすると父
が『今日はニャーよ』って言うんですよ。両方でニャーニャー言ってるんです・・」    
 釣りから帰って野良猫と会話する父の姿。毎日が楽しかったという。          

 そんな家も、父の釣り道具も、父も津波に全て流された。               

 3月11日、栄紀さんはヨットハーバーから帰って来た。大きな地震の後だった。家の近く
の会館に集まっていた人々に向かって、津波が来るから早く高台に逃げろ、という声が上がっ
た。栄紀さんは智弥子さんと直美さんに「先に行け!」と言った。            
 浄土寺に集まる事で決めていたので、そこで車の栄紀さんと別れた。それが最後に見た姿だ
った。浄土寺で二人は4時まで待ったけど栄紀さんは来なかった。            

 真っ黒い波だった。家がギシギシとぶつかり合い押し流されて行く。家のあった大町の集落
は全滅した。真っ黒い津波が高田の町を呑み込んだ。                  

 智弥子さんと直美さんは高田一中にいた。その日は雪が降って寒かった。避難した人に渡さ
れた水は一日わずかコップ5分の1。津波4日後にやっとパンが配られた。体育館では毛布も
なく、寒い夜を暗幕をかぶってしのいだ。                       
 そんな中を智弥子さんも直美さんも栄紀さんを探して歩いた。避難所は全部回ったが父の姿
はなかった。そこかしこで遺体が上がり、運ばれて行く。まさに地獄のような光景だった。 

 栄紀さんはDNA鑑定で5月に発見された。DNAといえば肉親なら誰でも良いかというと違
うらしい。この時は弟さんのDNAで発見された。考えてみれば妻は別のDNAだし、子供より
も兄弟の方がDNAの形はハッキリしているのだろう。                 
 DNA鑑定といっても、様々なハードルがあり、時間がかかる。高田にはまだ行方不明者が
600人以上いる。また身元不明の遺骨が多数存在する。まだまだ震災は終わっていない。 

 酒とタバコと釣りが大好きだった栄紀さん。                     
 智弥子さんと直美さんに、この絵が少しでもお父さんを感じさせてくれれば嬉しい。   

 栄紀さんのご冥福をお祈り致します。                        




 7月18日の面影画は藤野直美さん。                        

 津波で亡くなられたお父さんを描かせていただいた。                 

 釣りが大好きだったというお父さん。高田の松原で90センチのスズキや60センチのアイ
ナメを釣ったという。                                

 面影画は大好きな釣りをしている姿をリクエスト。ロッドを手にしたお父さんを描かせてい
ただいた。絵を受け取りに来た直美さんとお母さん。「わあ、父さんだ!」と喜んでくれた。

 この絵が少しでも直美さんとお母さんを力づけてくれたら嬉しい。           

今日は一日TBSテレビの取材が入っていた。疲れた。 「わあ、父さんだ!」と喜んでくれた直美さんとお母さん。