面影画22


6月23日の面影画は伊藤ひろみさん




描いた人 中山信夫さん 78歳 父                         
     中山春子さん 76歳 母                         

 ひろみさんの家は津波で流されてしまった。ひろみさんには何としても探したい写真があっ
た。一昨年の春、四月末に父と母が金婚式の盛装をして、満開のシャクナゲの前で撮った写真
だ。後にも先にも父と母が並んで、しかも盛装して撮った写真はそれ一枚だけだった。   

 何度も探しに行ったが、何も見つからなかった。                   

 今回、ひろみさんのお父さんと愛犬マックスの面影画を描かせていただいた。ひろみさんは
その直後に「満開のシャクナゲの前で両親が並んでいるところを描いていただけませんか?」
と言って来た。これも面影画の範疇だろうと思い、引き受け、今日の制作になった。    

 春子さんは今避難所に身を寄せていて、ひろみさんと一緒に生活している。       
 そんなお母さんを元気づけようと、この面影画を思いついたとのこと。         

 信夫さんは左官として北海道に出稼ぎに行っている時に、春子さんと知り合い、結婚した。
「たぶん、式は挙げてないんじゃないのかな?・・」とひろみさん。           
 ひろみさんのお姉さんが産まれた時に、北海道から高田にやってきて、以後、高田で暮らす
ようになった。出稼ぎの関係からか、ここ高田周辺には意外と北海道出身の人が多い。   

 信夫さんは長男で、後妻の子だった。そんな訳で父親の歳が離れていた。下の弟の学費を稼
ぐのも信夫さんの仕事だった。信夫さん24歳の時、下の弟はまだ14歳だった。     

 チリ沖地震の時から高田に住むようになった春子さん。一年くらい北海道に出稼ぎに行った
こともある。そして、最後まで北海道弁が抜けなかった。北海道の人というと比較的のんびり
しておおらかな印象があるが、春子さんはちゃきちゃきの道産子だった。強い人だった。  
 嫁、姑の問題もあったし、信夫さんと大げんかすることもあった。けんかの後はお互いに愚
痴をこぼす。そんな時決まって出るせりふが「よく五十年ももったよなあ・・」という言葉だ
った。                                       

 結婚して五十年。一昨年、陸前高田市が招待して合同の金婚式が行われた。4月下旬、庭の
シャクナゲが満開だった。                              
 この地区には「お花見」と称して4月29日に公民館で女の人だけの寄り合いがある。近所
の氏神様を一周して公民館に行くのだが、ひろみさんの家の前で必ず立ち止まり「毎年、ここ
のシャクナゲはきれいだねえ・・」と口々にほめるのが常だった。            
 その、満開のシャクナゲの前で盛装した信夫さんと春子さんが並んで一枚の写真を撮った。
金婚式を祝う写真だった。                              

 もう二人で並んで写真を撮る事はできない。せめて絵の中で二人を、満開のシャクナゲに包
まれるように描いてあげたい。                            

 この面影画が少しでも春子さんのやすらぎになれば嬉しい。              

 ひろみさんにおくる、金婚式のご両親の写真に代わる面影画。             



 6月23日の面影画は伊藤ひろみさん。                       

 一昨年、金婚式を迎えて、満開のシャクナゲの前で記念写真を撮った両親を描いて欲しいと
いうリクエストだった。                               
 両親が盛装して撮った唯一の写真だった。                      
 家が流されてしまい、どうしても残したかった写真もなくなった。探したけれど見つからな
い。せめて絵にして残したい。ひろみさんのそんな思いを込めた面影画となった。     

 満開のシャクナゲの花が難しかった。葉と花のコントラスト。密集した花のグラデーション
。丁寧に描くと時間がまったく足りない。ご両親を丁寧に描いて、花は少しラフになってしま
った。これも致し方ないところ。                           

 ご本人は「そっくり!」と満足してくれたが、花の部分にちょっと思いが残る絵になってし
まった。                                      

大切にしますと言ってくれたひろみさん。 津波に破壊されたタピックに行ってみた。