面影画21


6月21日の面影画は伊藤沙耶香さん




描いた人 尾崎道雄さん 75歳 おじさん                      
     尾崎昭子(あきこ)さん 73歳 おばさん                 

 沙耶香さんのリクエストはちょっと難しかった。おじさん、おばさんには一人娘がいて、名
前をひかるさんと言う。そのひかるさんに差し上げたいので、ひかるさん向けに描いてくれと
いうもの。                                     
 コメント部分をひかるさん向けに書くということになる。本人に会っていない状態で、果た
してそれが出来るかどうか、微妙なリクエストだったが、やってみることにした。     


 道雄さんと昭子さんは長い間大船渡で「魚道(うおみち)」という鮮魚店を営んでいた。真
面目な道雄さんの商売は近所にも評判が良く、長く続いた魚屋さんだった。        

 道雄さんはおおらかでやさしい人だった。魚も好きだったが、花も大好きだった。仕事の習
い性で早く起きることは普通だった。朝早いうちから植木に水をやったり、剪定したりするの
が日課のようなものだった。                             

 昭子さんは強い人だった。きれい好きで、掃除なども徹底していた。あそこが汚れてる、こ
こが汚れてるなどと、いつも動き回っていた。                     
 夫婦仲は良かったが、たまにけんかした。けんかといっても昭子さんが一方的に怒り、道雄
さんが「はいはい・・」と言って収まるのが常だった。                 
 昭子さんも花が大好きで、その点は二人とも一致していた。庭には季節の花が咲き乱れ、き
れいな花を手入れする二人の姿があった。                       

 道雄さんに癌が見つかり、治療をしながら鮮魚店を営業していたが、体調が思わしくなくな
り、娘と一緒に暮らそうということで、2年前から高田に移り住んだ。          
 ちょうど同じ時期だった。昭子さんが認知症になってしまった。何もかもきっちりやる真面
目な人だったから、進行が早かった。そんなこともあって高田で娘と暮らすようになった。 


 3月11日、道雄さんと昭子さんは米崎町の家にいた。最初は大きな地震だった。家の家具
が倒れ、様々なものが散乱した。道雄さんと昭子さんはそれを片付けていた。       
 沙耶香さんのおじいさんがそこに車で通りかかった。「津波が来るから逃げろよ!」と叫ん
だという。津波はすぐそこまで来ていた。                       

 状況は切羽詰まっていた。おじいさんはぎりぎりで逃げ切ったが、道雄さんと昭子さんは津
波に呑まれた。「耳が遠かったから聞こえなかったのかも知れん・・」おじいさんが言ってい
た。まさか、あんなに大きな津波が襲って来るとは誰も想像していなかった。       
 地震で散乱した家の中を片付けているところを津波が襲う。どれだけの人が犠牲になったこ
とか・・・                                     

 昭子さんの遺体は発見されたが、道雄さんはいまだに見つかっていない。        

 ひかるさんにおくる、花が大好きだったご両親の記録。                
 道雄さんと昭子さんのご冥福をお祈りいたします。                  



 6月21日の面影画は伊藤沙耶香さん。                       

 津波で亡くなられた、おじさんとおばさんを描かせていただいた。リクエストはひとり娘の
ひかるさんに向けて描いて欲しいというもの。                     
 難しい注文だったが、心をこめて描かせていただいた。                

 夕方、突然の雷雨でバタバタしたが、何とか約束の時間に間に合わせることができた。  
 絵は気に入ってもらえたようだ。喜んでもらえてよかった。              
 ひかるさんに、伊藤さんの思いが届けば嬉しい。                   

友達に絵をプレゼントという、こころやさしい沙耶香さん。 仮設のコンビニが出来ていた。普通に何でも買える。