面影画20


6月20日の面影画は村上あけみさん




描いた人 菅原昭雄(てるお)さん 75歳 父                    
     菅原 香(きょう)さん 79歳 母                    

 昭雄さんは市役所に勤めていた、40年以上を定年まで勤め上げ、悠々自適の生活だった。
このごろは体調を崩す事が多くなり、寝込む事も多くなってきた。            
 無口で穏やかで、いつもニコニコしている人だった。                 
 やさしい父で、あけみさんは一度も怒られたことがない。最近では、茜色のちゃんちゃんこ
を着て、テレビをニコニコ見ている姿を印象的に思い出す。               

 参考に持参してもらった写真には、運動会で孫の活躍を見守る昭雄さんの、やさしい笑顔が
写っていた。そのやさしい眼差しは娘や孫にいつも注がれていた。            

 香さんは菅原家の長女として生まれた。この地方の名家だ。長女なので婿を取ることになり
、昭雄さんと結婚した。                               
 香さんの背中には、常に「本家」を背負っていなければならなかった。本家の長女という立
ち位置から、どうしても香さんはみんなに頼られる。何もかも自分で判断するような立場に生
まれたことを、恨む訳でもなく、淡々とその役をこなしていた。             

 そんな香さんは、周囲から「強い人」「しっかりした人」と言われていた。本人も否定はし
ないが、娘のあけみさんの前ではまったく違う一面を見せていた。            
 エンジや赤の割烹着で台所に立つ姿が忘れられないという。煮物が得意だった香さん、お弁
当によく持たせてくれた。                              
 なべやき(ホットケーキ)やおまんじゅうを作っておやつに食べさせてくれた。     

 最近では、畑での野菜作り、家の仕事、父の介護と本当に忙しい香さんだった。そんな母の
すがたを子供たちに見せてやっていた。                        
 昭雄さんも香さんも孫を可愛がった。長男を「まっこ」、次男を「とも」と呼んでいつも気
にかけてくれた。もちろん、よく小遣いもやっていた。                 
 昭雄さんは二人の孫に「しっかり勉強して大学に入りなさい」と言う。         
 昭雄さんも香さんも、孫のことはいつも気にかけていた。               

 3月11日、二人は津波に流された。あけみさんは別の家なので事情は知る由もないが、兄
の話によると、昭雄さんは当時体の自由が利かなかったので、たぶんベッドで寝ていたのだろ
うという。香さんは、その時間は台所に立っていたのだろうという。           
 体の不自由な昭雄さんを置いて逃げる香さんではなかった。周囲がいくら「逃げろ!」と叫
んでも、二人はずっと一緒だった。                          

 昭雄さんの遺体は隣町まで流されて見つかったという。香さんは行方不明のままだ。   
 
 先日、陸前高田市では合同慰霊祭が開催され、百か日法要が営まれた。悲しみを現実に置き
換えて、前に進まなければならない日とされる。こころの痛みは消えないけれど、故人の思い
出を胸に、あけみさんは新しい一歩を踏み出さなければならない。            

 面影画が少しでも気持ちの整理に役立ってくれれば嬉しい。              

 あけみさんにおくる、やさしいお父さんとお母さんの記録。              
 昭雄さんと香さんのご冥福をお祈り致します。                    



 6月20日の面影画は村上あけみさん。                       

 津波で亡くなられたご両親を描かせていただいた。                  

 あけみさんの実家はこの地方の旧家で、菅原家の本家となっている。本家の長女として生ま
れたお母さんと、ニコニコ笑いながら母を支えた温厚なお父さん。対照的な二人だが、仲のよ
い夫婦だった。                                   

 仕事で打ち合わせに来られなかったあけみさん。打ち合わせは紹介者の菅原さんがやってく
れた。二人を良く知る人なので、スケッチの確認も菅原さんにやってもらった。      

 6時、仕事を終えてあけみさんが絵を受け取りに来た。「わあ、若い」第一声だった。よく
似てると喜んでくれた。「あたし、まだ実感がないのよね・・でも、こうして見ると本当にそ
うなんだなあって思いますよね・・」                         

 この絵がご両親の記録としてあけみさんの横に置かれれば嬉しい。           

夕方、絵を受け取りに来てくれたあけみさん。 「復興の湯」。ボランティアの人たちが運営している銭湯。