瀬音の森日記 84


東大演習林勉強会 初日



1999. 10. 16


10月16日朝、私は川越で尾崎さん、西武秩父駅で松本さん、澤田さんの3人を車で
ピックアップして、会場の川又に着いた。予定通り10時5分前の到着だった。途中渋
滞もなくスムーズに走ることができて助かった。                 

集合場所の演習林駐車場にはすでに大部分の人が到着しており、着替えて、足拵えも万
全の状態で残りの人を待っていた。しばらくして藪の高橋さんがレガシィで到着。そし
て、猫ミュウさんは奥さんと二人乗りのバイクで登場。残るはハミングウェイさん一行
のみとなった。                                

全員ヘルメットを着用し、名札を胸につける。一人一人挨拶と自己紹介をする。最後は
今日案内をしてくれる東大技官の大村さんが、今日の予定と演習林での心構えを話して
くれた。「瀬音の森はどんな森を作りたいのか?を考えながら森を見て下さい。」とい
う言葉が印象に残った。                            

ハミングウェイさん一行も到着して、全員で3台の車に分乗して樹木園を目指す。途中
トンネルを通るのだが、このトンネルは演習林を守るために切り通しの道路工事ではな
くトンネルにしたのだそうだ。開発から森を守る一つの選択だったということだ。  

10:45、樹木園到着。この樹木園は昭和15年に設置された。現在の場所にあった
原生林を主体として周辺からの移植、北海道や外来の樹種を含め124種の樹木で構成
されている。その中の91種131本に樹木ラベルが付けられているので、樹木園の道
を歩くだけで勉強できるようになっている。                   

大村さんが歩きながら様々な樹木を紹介してくれる。あるものは葉っぱで、あるものは
樹皮で、あるものは木の実で、あるものは種子で・・・次から次に樹木の名前が出てく
るので、メモを取ったり、写真を撮ったり、サンプルをファイルしたりと結構忙しい。

私はミニアルバムに葉っぱを採集してボールペンでフィルムにメモしながら歩く。その
採集ノートにはウダイカンバ、チドリ、ヒトツバカエデ、クマシデ、アカシデ、サワシ
バ、ウラジロモミ、ブナ、イヌブナ、麻の葉カエデ、オオヤマザクラ、コミネカエデ、
ミツバツツジ、チチブドウダン、クロモジ、エドヒガン、アオダモ・・・などの葉が次
々に挟み込まれていく。                            

樹木園で勉強中になんと大量のブナハリタケを発見!写真を撮る人の後に、わらわらと
収穫する人が集まる。手に手に採れるだけのブナハリタケを採る。これが今夜の夕飯の
きのこ汁になるのだ。収穫は他にも沢山あった。山の恵みに感謝である。      

12:30、樹木園を下って滝川の河原で昼食。滝川のきれいな流れを見ながらの食事
だったが、紅葉していなくて残念だった。紅葉していたらさぞきれいな景色だったのに
とは思うが、これは致し方ない。ここから渓酔さん、稲垣さん、澤田さんが食事当番で
宿に引き返す。                                

1:00、滝川から尾根にガレ道を急登する。足場が悪いので一歩一歩注意深く歩を進
める。周辺の樹相が登るにつれて渓畔林樹相から尾根樹相に変化する。サワグルミ、シ
オジの林から、モミ、ツガ、リョウブ、アセビなどが見えてくるようになると尾根が近
い。つづら折りの道を斜面にへばりつくように登っていく。            

ツガ林の尾根で小休止したあと、更に登る。途中真っ白いドクツルタケを発見。しばし
安谷さんのきのこ講座が開かれる。とにかく地面から生えている真っ白いきのこには手
を出さない事というのが結論だった。相変わらず滑りやすい踏み後が続く。左側の斜面
は半端じゃない急斜面だ、転落したらまず助かりそうもない。緊張の山歩きが続く。 

2:30、東大演習林自慢のシオジ林に到着。樹高は40メートル、樹齢300年から
400年という立派なシオジが林になっている。東大演習林自慢の日本一のシオジ林。
この空間を支配する時間と空気は何と表現したらいいのだろうか・・・・よくぞ残って
いてくれた・・・という思いがこみあげてくる。山道に一列に並んだ参加者がひときわ
小さく見える。                                

シオジ林の余韻を楽しみながら、道はヒノキ林の中を急降下する。間伐したばかりの樹
齢40年生のヒノキ林だ。急な道が滑る。注意しながら暗い林の中を下る。途中、ドラ
ム缶で作った熊の罠を見る。熊は演習林周辺で14頭確認されているそうだ。オスはと
ても行動範囲が広くて、発信器による確認では8キロ四方を動き回っているそうだ。そ
れに比べてメスはかなり行動範囲が狭いとのこと。熊をおびきよせるエサは何と生の蜂
の巣。ここでは、熊の研究をする前にミツバチの研究もしなくてはならないそうだ。 

道を下りきったところが久度の沢。そこから更に滝川まで下り、丸木橋を渡って対岸の
斜面を国道まで急登する。最後の登りで大汗をかいたが、ここからは平らな道を宿まで
歩く。気持ちの良いクールダウンの歩きで汗が引いていく。            

5:00、夜学の始まり。安谷さんの「秩父イワナ講座」。秩父イワナとは何か?とい
う問いかけと答えをプリント3枚にまとめたものをテキストにして解説。そして実物の
写真をスライド上映。全員がしっかりと勉強する。そして渓酔さんがセットしてくれた
東大の「演習林ビデオ」を見て演習林とは何かを学習した。            

6:00、夕食。稲垣さんと渓酔さんが中心になって出来上がった夕食は豪華なものだ
った。1000円の予算で2食分作るのだからあまり期待してはいなかったのだが、想
像以上に豪華版だった。きのこ汁、焼き肉、麻婆豆腐、お刺身、漬け物、いなごの佃煮
、新しょうが、食べ放題のご飯、うどん・・・大村さんが差し入れてくれたビールが開
けられて宴会が始まった。                           

楽しく熱い語り合いは深夜まで続いた。最後に寝た人は2時だったそうな・・・   

声が枯れるまで語り合って・・・あとはまた明日から。