瀬音の森日記 70


中村敦夫議員と熊本へ 1



1999. 7. 16


10時半に羽田のANAカウンター前に集合したのは、中村敦夫議員、田中秘書、渡
辺さん高橋さんと私の5人だった。すぐにチェックインして32番ゲートに急ぐ。
視察団一行とは搭乗ゲートで待ち合わせているのだ。皆で軽い食事をして、透明パ
ネルで仕切られた喫煙コーナーの中で打ち合わせ。              

「まるで動物園のオリみたいだなあ」と中村議員が笑わせる。ここでも中村議員は
注目の的だ。近くの人がチラチラと我々の方を見ている。プレスジャケットという
出で立ちも人目を引く。聞くとキャスター時代にカンボジアで使っていたものらし
い。胸に写真入りのプレスカードが入っている本格的なものだ。        

時間が来て、続々と参加者が到着し、名刺交換と挨拶などで緊張する。おおむね揃
ったところで簡単な自己紹介があった。ほとんどの人を知らない私はメモを取って
覚えるのに必死だった。                          

アナウンスがあり、バスに乗り込む時間になったがフライデーの3人と神保さんが
来ていない。ちょっとあわてたが何とか滑り込みで間に合った4人とあわただしく
名刺交換しながらバスに駆け込む。全員集合して無事機中の人となり、ANA623便
は定刻で鹿児島空港へ出発した。                      

1時20分鹿児島空港から送迎バスで人吉へ向かう。空港では茂吉(もよし)さん
【川辺川利水訴訟原告団副団長】、重松さん【人吉大水害を語り継ぐ会】、吉村さ
ん【清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会】、田中さん【五木村議】
が出迎えてくれた。                            

人吉に向かうバスの中で改めて全員が自己紹介をする。初めて会う人ばかりなので
顔と名前がまだ一致しないので困った。車内で重松さんから人吉の水害の話、茂吉
さんからは利水裁判の話。そして吉村さんからは川辺川・球磨川を含む周辺の話題
・歴史をユーモア交じりに解説してもらった。参加者全員の知識を一定レベルにし
ておかないとこれからの視察も的がズレてしまうからだ。           

人吉旅館に荷物を置き、バスはまずダムサイト予定地に向かう。道の横を流れる川
辺川が青い水をたたえている。すばらしい水量だが若干白い濁りが入っている。 
「仮排水路工事のせいですばい、小さか工事でんこれだけ濁ります。青白うなっと
っとでしょ、ほんまこつはもっと透明で緑色をしちょります。」        
と吉村さんが言う。鮎漁師の吉村さんは川が変わっていく事が悲しいとつぶやく。

バスがダムサイトに着いた時、カメラの放列が待っていた。地元テレビ局のカメラ
マン達だ。新聞記者もいるようだ。車内では「ほらカメラいるから、中村さんから
降りなきゃ。」と誰かが言う。中村議員はその声に笑いながら応えてバスを降りて
いく。さすがに心得たものだ。                       

ダムサイトで説明を受ける。「あの山のあそこから、この山のあそこまでがダムに
なります。」と言われて見るのだが、あまりの巨大さに悲しいかな実感が湧かない
。川の流れは帯のようにはるか谷底に見えるのだが、その巨大な「壁」を想像する
事ができない。この目の前の景色がコンクリートで塗りつぶされる事が想像出来な
いのだ。                                 
「ウソだろ・・そんな事やっちゃっていいの?」というのが素直な気持ちだった。

中村議員は報道陣に囲まれている。遠巻きにしている区議さんに私の拙い知識でダ
ムの解説をする。区議の皆さんも現場に立って初めてその巨大さを実感したようだ
。こういう話は現場でするに限る。理屈抜きにその異常さがよく分かる。    

ダムサイトから五木村へと入る。中村議員と報道陣一行は役場へ村長と会談に行き
、残った我々は小学校から歩いてやませみ館(ダム資料館)へ行く。途中で会う小
学生も中学生も「こんにちは」と声をかけてくれる。これは嬉しい事だった。  

吉村さんと茂吉さんがいろいろな話と解説をしてくれる。暮らしや補償・現状など
について質問が次から次に出る。小学校の校庭にあった二抱えもあるスダジイの木
、吉村さんは200年ものだと言っていた。これだけの木がダム湖に沈む。200
年育ってきた木が人間の勝手な都合で切り倒されてしまう。ちょっとたまらない気
分だ。川辺川を渡る橋の上から川の流れを見る。この豊かで清冽な水の流れがヘド
ロで真っ白に濁るのだ。これもたまらない気分だ。              

やませみ館でダムサイトの模型を見る。この模型は我々視察団のかっこうの話題に
なった。恣意的に作られた意図が分かるのでこのダムの問題点がよく分かる模型だ
った。ダム湖がどうなるのか?代替地の危険性は?・・・滅び行く五木村を象徴し
ていて、明るい未来などカケラも見えないという皮肉な模型だ。        

役場での会見の様子はいろいろ聞いたが、私は同行していないので割愛します。 

全員揃って一行は次に五木村議田中雄二さんの自宅に向かった。五木村の中心頭地
から車で30分ほど走ったところに田中さんの自宅「山小屋」があった。ちょうど
川辺川の支流が入っていて、その支流5キロ区間をキャッチアンドリリース区間と
して整備するのだという。その支流は水量・水色ともに申し分のない川だった。 

一行はここで河原に降りて直接川辺川に触れた。ここでも中村議員はカメラの的に
なる。さすがに心得ていて川べりに立つ姿も決まっている。          
「こう暑くちゃ泳ぎたくなっちゃうねえ」                  
と周りを笑わせている。バスに乗り込む前には近所の人と記念撮影。これも心得た
ものでいろいろな注文に応じていた。                    

頭地の代替地を見る。急斜面を造成した代替地は素人目に見ても急な造成がありあ
りで「土砂崩れなどがいつ起きてもおかしくない。」と言われるのもうなづけるも
のだった。代替地両側の沢の堰堤群の異様な数が崩れやすい土質を示している。代
替地での災害が起きないことを祈るばかりだ。                

延々と川辺川を見ながら下り、今夜の宿人吉旅館に帰る。早速一日の疲れを取る為
に温泉に入る。この温泉はじつに気持ちよい温泉で、浴槽の中にベンチがしつらえ
てあり、楽な姿勢で湯に入っている事が出来る。ゆっくりと湯に浸かり一日の疲れ
を癒した。                                

夕食時に水系ネットワークの高場さん、手渡す会の緒方先生他が出席して、吉村さ
ん提供の「鮎を食べる会」が催された。吉村さん自慢の鮎はみそ汁と塩焼きになっ
って食膳を飾った。とりわけ塩焼きはおいしく、私はおかわりをして4尾も食べて
しまった。酒は球磨焼酎の「六調子」、皆さんグイグイ飲んでいる。重松さんの歌
も出て盛り上がった交流会となった。もちろん一人一人の自己紹介が中心で一人一
人が熱い思いを語った事は言うまでもない。                 

球磨川の鮎は旨い・・・・あとはまた明日から