瀬音の森日記 398


井戸沢エコツアー



2006. 5. 27/28


5月27日28日の二日間、源流部会のイベントである井戸沢エコツアーに参加してき
た。本格的な沢登りは初めてということで、準備も入念に行い、やや緊張しながらの参
加だった。前日の10時に猫ミュウさんが自宅に来てくれて、車を乗り換え、二人で秩
父に向かった。秩父市内を抜け、大滝から大洞林道に入る。カーナビは細い一本のスジ
だけを表示している。時折、大きな影が車の前に飛び出す。鹿が林道を歩いているのだ
。かなり多くの鹿に遭遇し、今さらながら奥秩父の鹿食害問題を思い起こす。    

集合場所の林道終点には長南さん達の車が停まっており、3人がシートを張って寝る準
備をしていた。セキトモさんとタチダさんに挨拶をする。5人でビールを飲み、しばし
歓談するが、明日朝の事を考えて寝ることにする。私は車の中で仮眠した。明るくなっ
たので目が覚めたら4時半で、外に関根さんが来ていた。関根さんは何故かヒゲが無く
なっていた。保存会の秩父岩魚保護の看板と杭を持っている。これを林道終点とテン場
に設置するのだそうだ。沢登りの身支度をしながら徐々に緊張してくる。      

5時半、霧が流れる中、ゲートを越えて歩き出す。しばらくは林道歩きが続く。そして
惣小屋沢への降り口に到着し、関根さんが保存会の看板を設置する。井戸沢の出会いま
で下って休憩し、いよいよ本格的な井戸沢の沢登りに入った。小雨模様だったが沢が増
水している気配は無く、簡単な沢歩きだった。いつもの釣りと違うところは背中に大き
なザックがあるだけの違いで、問題なく上流へ遡行できた。ところどころ現れる厳しい
場所には残置ロープがつけてあるのでそれを利用する。眼前に滝が現れるとその壮大さ
に感動する間もなく高巻きに入る。巨大な淵も同様で、フェルト底の足元が滑る高巻き
が増えてくる。                                

いよいよ難所のキンチジミ。滝の奥に通らずがあるのだが、そこまでは見えない。我々
は右岸の大高巻きの急斜面に取り付く。トラロープが何本も張ってあるのだが、足でバ
ランスを確保しながらでないと安易にロープに頼れない。ロープを掴むことでバランス
を崩しそうな急斜面なのだ。本当に一歩一歩足元を確保しながら断崖絶壁をトラバース
する。怖かったが、源流部会の面々はいつもこんな場所を登っているのかと驚いた事も
事実だ。下るときは落石しないように細心の注意を払った。ここで石を落としたら先行
するセキトモさんを直撃するのだから・・・絶対に落石させない歩き方を学んだ気がす
る。水際に降り立った時は本当にホッとした。その後何度も川を渡り、やっとの思いで
テン場に到着したのは昼過ぎだった。                      

テン場と言っても川岸に平らな場所があるだけで普通の山だ。関根さんはさっそく看板
の設置を始めた。私は周辺で焚き火の薪集めをする。小雨が降っているがさほど寒くな
く、焚き火さえあれば凌げそうだった。大量の薪を引きずって集め焚き火を始める。猫
ミュウさんと関根さんは釣りを始めた。二人ともテンカラ。だが、何だか渋いようだ。
猫ミュウさんは今晩のおかずに岩魚の唐揚げを予定しているとのことで頑張っている。
私も続いて竿を出すが釣れない。長南さんが2尾釣った後で、やっと私の竿にも岩魚が
掛かってくれた。きれいなチチブイワナだった。でもその1尾しか釣れなかった。  

釣りを終えてテン場に戻り、焚き火で体を暖める。長南さんとセキトモさんがシートを
張った。この下が今晩のねぐらとなる。雨が降っているのに、テントではなくシートを
上に張っただけ。みんな源流ではこうして寝るらしい。夕食は各自1種類のおかずを提
供するのが源流部会の掟。私はほうれん草のお浸しとサラダを持参した。関根さんは岩
魚汁、長南さんは焼きそば、猫ミュウさんは岩魚の唐揚げ、セキトモさんはスパゲティ
、タチダさんが作ろうとした雑炊は明日の朝食べようという事になった。とにかくお腹
いっぱいになった。ビールもウイスキーもシングルモルトもある。食べて飲んで話して
いるうちに眠くなってきた。昼の疲れもあり、早々に寝袋にもぐり込んでしまった。 

寝ている間中雨が降っていた。時折雷が鳴ることもあり、目を覚ましたが、おおむねぐ
っすり寝ていたようだ。起きて焚き火の横に行ったら、関根さんが釣りをしていた。お
土産分は釣れたと笑っていた。朝食は岩魚汁と雑炊。体が温まる。そのまま焚き火で濡
れたものを乾かし、10センチほど増水した川の流れを飽きずに眺めていた。まったり
とした時間が流れ。自分が奥山にいることを忘れさせてくれた。          

昼前にテン場の撤収。帰路の準備をする。濡れた沢靴を履き、スパッツを付ける。ザッ
クはお酒と食料分が軽くなっていたが、さほどの違いは感じない。帰り道は沢が増水し
ているため、ここから直登し、鹿道をトラバースする道らしい。何だか怖いようだ。集
合写真を撮り急斜面の直登に入る。汗が滝のように流れ、足元が滑る。濡れた土の急斜
面をフェルト底の沢靴で登るのだから滑るのも仕方ない。大汗を流しながらの直登だっ
た。そこかしこにピンクのリボンが付いていて、それを目標に歩く。kazuyaさんが付
けた目印らしい。この目印が無かったら、とても道とは思えないような場所ばかりで、
多分歩くことすら出来ないだろう。よくもまあ、こんなルートを開発したものだ。  

鹿道は延々と続き、山の神まで到着してやっと普通の山道らしくなってきた。この山の
神近くでは大量の岩茸があり、皆おみやげに採っていた。山の神を下ったところが通称
「鹿の楽園」と呼ばれている巨木林。奥山でわずかに伐採を逃れて残されたブナやミズ
ナラやトチノキの巨木が一面に生えている素晴らしい場所だった。この巨木林を見ただ
けで、今回のツアーは満足できるものだった。ミズメの巨木は人がスッポリ入るくらい
のウロが出来るほどの太さで、これも感動的だった。その後の山道は大変厳しく、足が
ガクガクするような道だったが、井戸沢出会いの河原に降り立った時は本当に充実感に
満たされていた。二日間の山歩きが終わった。                  

林道を歩きながら、自分が歩いてきた道を考えると誉めてやりたくなった。