瀬音の森日記 341


北海道大学 苫小牧研究林の見学



2004. 9. 5


9月5日(日)北海道大学の苫小牧研究林を見学した。ここは川と森の関係を研究して
いることで有名な研究林で、kazuyaさんの骨折りで見学が実現した。森と川をつなぐ
研究がどのようなものなのか、興味深い内容で、見学がじつに楽しみだった。朝8時半
に旭川を出発した5台の車は、高速道路で北海道の平野を突っ切って太平洋岸にある苫
小牧に向かった。途中何度か道を間違えながらも、予定の時間に研究林庁舎に到着した
。庁舎では案内役の村上先生が待っていて、我々を待合室に招き入れて研究林の概要を
説明してくれた。                               

苫小牧は樽前山の噴火による火山灰地に出来上がった森で、火山灰地特有の森林形成を
成しているとのこと。さらに、針葉樹による造林は土壌性質が合わず全て失敗し、広葉
樹を造林し、市民に開かれた里山風の研究林として再出発したとのこと。研究林は大き
く分けて4つの区画になっている。この庁舎周辺の「都市林共生系実験地区」、研究林
の中を流れる幌内川上流の「流域生態系実験地区」、そして「森林動態制御実験地区」
および「原生自然環境保存地区」である。                    

簡単な説明のあと、実際にその森を拝見するためにすぐに「都市林共生系実験地区」に
入っていった。芝生がきれいな公園のような研究林に入ると大きな池があり、70セン
チ以上のイトウや50センチ以上のニジマスが群泳していた。池の中央には大きな「釣
り厳禁!」の看板が立っていた。釣り人なら間違いなく唾を飲み込むような池だった。

池の奥に川が流れていた。この川や池は研究員の先生がブルドーザーで掘って作ったも
のとのこと。川の中の石や倒木も全て持ち込んだものらしい。そこまで人工的に作りな
がら景観にとけ込んでいる事に驚かされたが、言葉を変えれば、人工的に作り上げた景
観がこの研究林の特徴だということだ。違和感を感じる人もいれば、美しさを感じる人
もいるはずで、一般の人に森林に興味を持ってもらう「入り口」としての研究林の役割
は果たしている。この研究林はそれが狙いで作られている。東大の富良野演習林とはま
ったく違うコンセプトだが、やろうとしている事は良く分かる。          

「森はよみがえる」という本を書かれた元林長の石垣先生の提唱された理念に基づいて
研究林が運営されている。どろ亀先生もそうだが、石垣先生もまた強烈な個性で北の大
地に豊かな研究林を作り上げた。我々はその理念の持続をこうして歩きながら実感する
ことが出来るのだ。本当にありがたいことだ。                  

この研究林は100%一般に開放されているとのこと。採取・採集は禁止だが、山菜と
きのこだけは例外として黙認しているとのこと。こんな素晴らしい森が立入自由で、山
菜やきのこが自由に採取出来る。苫小牧市民は何て豊かな財産を持っていることか。こ
の日も大勢の市民が車を停め、きのこ狩りに森の奥深くまで入っていた。この森を、お
弁当を持って1日散歩出来たらどんなに楽しいだろうか。樹木園ではすべてに説明板が
付いており、樹木の勉強には事欠かない。透明な湧水の川が流れ、池には巨大な魚が泳
いでいる。芝生は快適で、どこまでも広い。                   

昼食は池の前の芝生に座って食べた。この景色の中で食べると、コンビニのおにぎりで
も本当に美味しい。小石や木の実を池に投げて、巨大なイトウとニジマスが奪い合うの
を楽しんでいた。こうして寄ってくるのだから、ペレットを食べ慣れているのだろう。

午後は車に分乗して研究林の奥に入っていった。この「流域生態系実験地区」では川と
森の関係を様々な角度から研究しており、その一部を村上先生に解説して頂いた。車を
停めた場所は研究林の中を流れる幌内川(ほろないがわ)の上流だった。川には川幅い
っぱいに農場のビニールハウスで使うパイプで覆われており、実験時にはパイプの上(
ビニールハウスで言うと屋根の部分)が1ミリ目のネットで覆われるとのこと。1200
メートルの長さにわたって川と森を遮断して、川虫や陸生昆虫と川の生物についてのデ
ータを取るのだそうだ。                            

川に落ちる虫を止めて川虫(水生昆虫)がどれくらい鳥の餌になっているかを調べる研
究からは、鳥の約25%のエネルギーが川虫から得られているという結果が出た。また
、魚の餌の40%は陸生昆虫であるという結果も出た。様々な実験が行われて、森と川
の関係についてのデータが蓄積されている。羽化した全ての川虫は5メートル以内で魚
に食べられるとか、優先位置にいる魚を釣った後にどのくらいの時間がたてば次の魚が
入るのかとか、釣り人にとっても興味深い内容の研究が行われているとのこと。   

この幌内川は湧水で研究林内で湧き出しており、100%研究林の管理下にある川で、
流域は50%がミズナラの広葉樹林であり、アメマス、ニジマス、サクラマス、オショ
ロコマが生息しているとのこと。そんな研究に向いた川は日本中でここにしかないだろ
う。川や森や魚について研究したい人が全国から集まってくるとのこと。そんな事もよ
く理解できる。ちなみに今日案内して頂いた村上先生は陸上の生態系を研究なさってい
るとのこと。野鳥の専門家でもある。この森だけで50から80種類の野鳥が観測でき
るそうだ。                                  

庁舎に戻り、村上先生に森林資料館を案内して頂いた。平常は人件費の問題で休館状態
にあるらしいが、今日は特別に入館させて頂いた。ここの樹木標本は素晴らしかった。
考えられる全ての樹木が丸太、板、枝、葉を揃えてセットになって展示されていた。板
の壁は国内で販売されている全ての板が揃っているとのこと。加えて国内で見られる全
ての野鳥の標本と剥製があり、オオカミやヒグマやシマフクロウを含めた北海道すべて
の動物が剥製になって並んでいた。このような立派な資料館が人件費の関係とは言え、
休館状態というのは北海道の損失だと思う。1日も早く開館して欲しいものだ。   

資料館を出て、村上先生にお礼を言い、庁舎前で記念の集合写真を撮って、見学が終了
した。そこからそれぞれの行く先に別れて解散した。あっという間の見学だったが、と
ても内容の濃い時間だった。                          

北の大地の豊かさを実感・・・あとはまた明日から。