瀬音の森日記 323


西木村で紙風船上げを手伝う



2004. 2. 10


2月10日(火)今日は西木村の紙風船上げの日だ。昨日の新幹線「こまち」で田沢湖
町に着き、前日から来ている仲間と合流し、雪遊びや温泉を楽しんだ。今日は朝から西
木村に入り、お祭りの手伝いをする事になっている。ワンボックスレンタカーの中には
ハミングウェイさん、渡部さん、稲垣さん、岡田さん、坪井さんご夫妻と私の7人が乗
っている。果たしてお手伝いになるのか、足手まといになるのか。         

車は雪景色の中を上桧内(かみひのきない)に向かう。この時期の雪国を車で走るのは
初めてなので、見るもの見るものが新鮮に見える。道路には思いの外雪が少なく走りや
すそうだ。渡部さんがハンドルを握っている。目的地は新しくできたという紙風船会館
。「来れば分かるよ」という言葉を信じて走っているのだが、案に相違して表示が何も
無い。桁沢(けたさわ)集落の表示を見て車を停め、歩いている人に聞いたら行き過ぎ
た事が分かった。あわてて戻って見ると、雪原の中に忽然と会館らしき建物が建ってい
る。駐車場に車を入れると、ちょうど阿部さんが立っていて、誘導してくれた。   

そのまま車で阿部さんの出身地、桁沢集落に向かい、荷物の搬出の手伝いをすることに
なった。今日は、この桁沢集落の出店を手伝うことになるらしい。荷物の大半はすでに
軽トラに積み込まれており、トンボ帰りで紙風船会館横のお祭り会場に戻る。軽トラか
ら次々に荷物が降ろされ、テントが組み立てられていく。鮮やかな手際で3基のテント
が設営され、横幕によって連結されていく。毎年のこととは言え、鮮やかなものだ。 

テント内に3台のストーブを設置して、煙突を取り付ける。これが結構大変な作業で、
ああでもない、こうでもないと煙突を繋いだり外したりという調整をした。雪原に掘っ
た穴にヒノキの丸木柱を立て、それに煙突を固定する。ストーブのあとはテント前の大
鍋2台の設置だ。こちらも柱を立てそれに2本の煙突を固定する。概ね終わったところ
で集落会館に戻り、昼食を食べることにする。                  

桁沢集落の集落会館は阿部さん宅のすぐ近くにあった。ここでは女性陣が出店して売る
商品作りが行われている。山菜の処理、笹餅のパック詰め、練り物のスライス、ウイン
ナーへの竹串差し、甘酒作りなどを汗を掻きながら必死にやっていた。我々はその横で
食事をし、お酒を飲み(お祭りなので昼から酒が出る)声高く話をしていた。全員が会
館に集まって打ち合わせをしていた。                      

昼食後、いよいよお祭りの始まりだ。軽トラに商品や酒を積み込み、会場に運ぶ。上桧
内の各地区がしのぎを削るお祭りの始まりだ。会場にはold-beanさんが来ていたので
すぐに手伝ってもらう。さっそく大鍋に火が入り、山菜地鶏鍋が仕込まれる。大鍋の湯
気と煙突の煙が会場の人を集めていく。炭火がはぜてパンパンと派手な音を立てている
。粗悪品の炭があったようだ。炭火が熾きたらフランクフルトを焼き始める。何をして
良いか分からなかった私は、とりあえずフランクフルト売りの声を上げることにした。

「さあ、いらっしゃい!」「暖かいフランクが旨いよ〜〜!」「安いよ〜フランク10
0円!」「さあ、いらっしゃい!」「あっつあつのフランクが美味しいよ〜!」どこか
のお祭りで聞いたような言葉を並べて両手をメガホンにして怒鳴る。これは体が暖まっ
ていい。ハミさん、渡部さんも大鍋の前で声を張り上げる。こちらは湯気の効果もあり
客の感触が良い。テントの中は忙しく走り回る売り子さんが行き交うようになった。 

広い会場を一周する。各集落がどんなものを売っているのか、敵情視察のようなもの。
集落毎に微妙に売る物が違っていて面白い。神殿になるかまくらも出来上がっている。
舞台の前では太鼓の演奏が始まった。人がどんどん増えてきたので、急いでテントに戻
り、フランク売りのピッチを上げる。会場入り口の一番近くというベストポジションな
ので実績を上げなければならないので大変だ。声を張り上げる「フランクいかがっすか
ぁ〜〜!」「あっつあつだよ〜〜!」紙コップに入れた熱燗の酒を飲みながら叫ぶ。 

昼の部の紙風船上げが始まった。和紙で作った巨大な紙袋の下から熱風を吹き込み、仕
上げは油玉(ゆだま)に火をつけて一斉に手を放つと巨大な紙風船がビューンと空に舞
い上がる。今日は風がまったく無いので火の熱で風船がまっすぐ上に登っていく。こん
な日は珍しいのだそうだ。大雪でも大雨でも、どんな天気でも紙風船上げは行われるら
しい。我々は運がいい。次から次に巨大な紙風船が鮮やかなイラストとともに舞い上が
っていく。描いてある文字やイラストはさすがに子供らしいものが多い。      

夕方までフランクフルト売りが忙しく何も見られなかった。村長と挨拶したり、課長と
挨拶したのもフランクを売りながらだった。寒くなってフランクの売れが良くなった。
大鍋の山菜汁はそろそろ完売しそうな勢いだ。鍋を一つにして空いた鍋に玉こんにゃく
を入れて煮る。これで玉こんにゃくも売れるだろう。               

夜の部の紙風船は各集落の威信をかけたものになる。巨大な武者絵や美人画の紙風船が
オレンジ色に浮かび上がる様は幻想的で美しかった。私は観客としてではなくテントの
中からフランクを売りながらそれを見ていた。「さあ、ドイツ直送フランクフルト!」
「どこのドイツだフランクフルト!」「寄ってらっしゃい見てらっしゃい、暖まるのは
タダだよ〜〜!」忙しい事この上ない。夜に入ってフランクの売れ行きに拍車がかかっ
てきた。そして8時の一斉打ち上げ。                      

桁沢集落の皆さんが「瀬音の森」の紙風船を準備してくれていた。巨大な瀬音の森紙風
船が立ち上がり、オレンジの光が入ると、それはそれは感動的だった。この時ばかりは
フランク売りを止めて風船揚げの輪に加わっていた。音もなく静かに瀬音の森紙風船が
夜空に登っていく。また一つ西木村との絆が深まった瞬間だった。         

フランク完売!・・・あとはまた明日から。