瀬音の森日記 125


シオジ苗の山採り



2000. 4. 20


4月20日(木)東大演習林でシオジ苗の山採りをした。これは「瀬音の森・秩父」が
東大演習林と共同で研究する事になっている「渓畔林再生研究」の第一歩で、シオジや
サワグルミ、ケヤキの植林用の苗を山採りしようというものだ。種から採取して蒔くの
では成長するまでに何年もかかり、種の不作も考えられるので、山に生えている実生苗
を採取して畑に植えようというものだ。                     

朝から雨が強く降ってるので、合羽を着ての作業となる。演習林からはKazuyaさんと
Sawadaさんが参加して3人での作業になった。演習林の車で矢竹沢の出合いまで行き
、身支度をして森林軌道を歩く。釣り人2人とすれ違う。この雨の中でも釣りをする人
がいる事に驚く。釣果を聞いたらヤマメが3つ出たと言っていた。         

雨の中を歩きながらKazuyaさんがいろいろな木の説明をしてくれる。紫色の明るい花
をつけたミツバツツジ、白い房のような花をいっぱいぶら下げているキブシ、花が終わ
り、若葉を出し始めたフサザクラ、濃い紫色の花をつけているハシリドコロ、花が開く
ような形のきのこツチグリ、雨に濡れた幹が美しいチョウジザクラ、などなど。この季
節でなければ分からない木の表情を観察しながらの山歩きだった。         

もう少しで赤沢出合いというところで荷物を下ろし、シオジの実生苗を採取する。シオ
ジの苗は積もった枯れ葉の間から5〜6ミリの小さい新芽を出している。当年苗は7〜
8センチのマッチ棒のような小ささでうっかりすると見逃してしまう。慎重に指でつま
んで苗を抜く。雨が降っているので地面が柔らかくなっていて苗はスルッと抜ける。雨
の日だからこそやりやすい作業だった。抜いた苗をビニール袋に入れる。やはり雨のお
陰でこうしておいても苗が乾く心配がない。                   

沢沿いの斜面にへばりつくように苗を抜く。雨の中でしゃがんで作業するのは大変だが
苗が沢山必要なので、懸命に採取する。ビニール袋はどんどんふくらんでいく。「ポッ
ト苗にしたいので、なるべく小さいまっすぐな苗を集めて下さい。」とKazuyaさんに
言われる。しばらく集めているうちに「もう充分ですね次はケヤキに行きましょう。」
と声がかかる。森林軌道を戻るSawadaさんの手には大きなビニール袋が抱えられてい
た。雨の中でも帰りの足取りは軽い。                      

車に戻って、そのまま演習林内の林道を走り、ケヤキ造林地に行く。車の中で雨の音を
聞きながら昼食。そして作業の再開。ここでは道路脇の斜面に出ているケヤキの未生苗
を採取する。小さいケヤキの苗が沢山ある。この小さい苗のうち大木に育つ可能性があ
るのはほんの一部に過ぎない。大半は枯れたり刈られたりしてしまうのだ。これを畑に
植えて大きく育てて、山に帰す。単純だが大きな夢のある行為だ。ビニール袋はあっと
いう間に一杯になった。                            

演習林のケヤキ植林地にも鹿防護ネットが張られていた。昨年くらいから鹿の食害がひ
どくなってきたようだ。サルに喰い散らかされたニセアカシアの枝が白く散乱している
ところがあった。樹皮を食い尽くすのだそうだ。さて、苗の山採りは終わった。これを
影森の苗畑で処理しなければならない。車で急いで市内に戻る。途中、雨にけむる峰々
と満開の桜がきれいなコントラストを見せていた。                

東大演習林影森苗畑は秩父市内にある。機械倉庫の軒下を借りて山採り苗の分類と成形
をする。長い根を短く切り、畑に植えやすいようにする。当年苗と大苗を分ける。黙々
と作業する3人、苗畑職員の大森さんも手伝ってくれた。シオジの苗は8〜900本、
ケヤキは3〜400本、サワグルミは大苗で2〜30本くらいありそうだ。     

整理し終わったら、苗床に仮植する。ピートモスの苗床にシャベルで柵を切り、そこに
苗を並べる。均等に根が土につくように並べ、土を寄せてかぶせる。雨の中の作業だっ
たが、ここまでしてやっと一段落した。生き物の取り扱いだから、迅速に乾かさないよ
うにしなければならない。一日雨で、作業は大変だったけれど苗達にとってはダメージ
の少ない移植だったと思う。                          

午後4時、作業が終わり、Kazuyaさんが苗畑の全体を案内してくれた。演習林の苗畑
を見るのは初めてだったので、興味深く見せていただいた。ヒノキの種苗と挿し木苗の
違い。カツラの上品な葉色の苗。逞しく育ったシオジとケヤキの苗。全国のブナが並ん
で植えられている畑。様々な苗がそれぞれの表情で雨の中に立っている。苗を眺めなが
ら、ここも演習林なんだと実感した。                      

さて、4月29日(土)には仮植した苗を畑に1本ずつ植え直ししなければならない。
会員に呼びかけて移植ボランティアを募らなければならない。未来の渓畔林となる貴重
な苗を育てるのだ。多くの会員が参加して、渓畔林再生のための一歩を歩き出したいも
のだ。                                    

雨は植物にやさしいことを実感・・・あとはまた明日から。