W杯静岡:ベルギー対ロシア戦観戦記


同時進行の名勝負
6月14日に静岡エコパスタジアムで行われたベルギー対ロシア戦の観戦記。



同時進行の名勝負!

日本が決勝トーナメント進出するなんて4年前には誰が考えただろう。今日、それが
現実のものとなった。6月14日(金)大阪長居スタジアムで行われたチュニジア戦
で2:0と勝利し、日本は初めて決勝トーナメントに駒を進めることができたのだ。

私はその瞬間を静岡のエコパスタジアムで迎えていた。同組のベルギー対ロシアの戦
いを観戦していたのだ。1次リーグの第3戦は2試合とも同日の同時刻に開催される
ことになっていて、私は日本がチュニジアと戦っているのと同時進行で繰り広げられ
ていた名勝負を観戦していたのだ。以下、その観戦記である。          


東京駅東海道新幹線の18番ホームで藪沢さんと待ち合わせていた。9時46分発ひ
かり147号に乗るためだ。ホームではジャパンブルーの日本代表レプリカを着た人
が多い。今日は大阪で日本対チュニジアの大一番があるので、それを観戦するのだろ
う。若干のうらやましさを込めてその人たちを眺めていた。サッカー観戦のため新幹
線は指定席が売り切れており、自由席も一杯になっている。発車10分前に藪沢さん
が来たので乗り込む。このまま熱海まで行き、そこでこだまに乗り換えて掛川で降り
、さらに東海道本線で1駅乗った「愛野」が目的地だ。そこに静岡エコパスタジアム
がある。                                  

藪沢さんとは浦和レッズ繋がりで何度か観戦している仲間だ。住まいは花巻なのだが
声をかけたら「行きます!」と即答されて、今日は朝一番の東北新幹線で東京にやっ
てきたという訳だ。久しぶりに会うので話が弾む。サッカーの話で盛り上がりながら
新幹線の中でベルギーのレプリカに着替える。今日は「赤い悪魔」のサポーターとし
てベルギーを応援しようという事になっているのだ。

掛川駅で新幹線を降り、乗り換えの為東海道本線のホームに移動する。そこに派手な
格好をした3人のベルギーサポーターがいた。彼らもこちらを見つけ「ハ〜〜イ!」
と言いながらハイタッチ。中の一人が私のリストバンドを目ざとく見つけ「ダメダメ
ね〜」と人差し指を横に振る。ははは、色が同じだからいいだろうとドイツカラーの
リストバンドをしていたのだ。鋭い指摘に大反省。さっそく持っていた赤いリストバ
ンドに交換した。右手に黒、左手に赤、これならいいだろう。          

愛野駅はスタジアムと一緒に出来た新しい駅だ。駅前には何もない。広場が大きな特
設テント村になっていて、お弁当や飲み物、応援グッズなどを売っている。大勢の人
が観戦前の腹ごしらえをしていた。我々もさっそく缶ビールを買い、歩道に座り込ん
で飲み始めた。天気も良く、雨の心配はなさそうだ。会場内ではビール販売が制限さ
れているので、ここで飲んでおこうという訳だ。駅で見たベルギーのサポーター3人
組が写真撮影に引っ張りだこで大人気。撮影待ちの行列が出来ているほどだった。 

腹ごしらえをしてからスタジアムに向かう。小高い丘の上にあるスタジアムは見えて
いるのだが遠い。だらだらとした上り坂を歩き、登る歩道エスカレーターで更に上に
行くと巨大なスタジアムに到着だ。広場には大勢の人がたむろしており、係りの人の
案内の声が響いている。チケットチェック、荷物チェック、金属探知器チェックを受
けてスタジアムに入る。案内された席に着くとボーイズマッチをやっていた。さすが
に静岡、サッカーどころだけあってなかなか上手い。楽しませてもらった。    

ビールを買いに行ったら2時からしか販売できませんと言われた。なぜこんな規則が
出来たのか分からないが杓子定規なことだ。結局30分待って、2時になってから買
いに行ったら、とんでもなく長い行列になっていて、買うのに20分。ああ、時間の
無駄。じつにつまらない規則を作るものだ。もちろん一人一杯限り。ベルギーサポが
ビールを飲みながら次の列に並んでいるのは笑った。              

席は二階席の角部分なので全体がよく見える。周辺はサッカー協会枠とあって体育の
先生風の人が多く「あれ、○○先生じゃないですか!」「いやあ、久しぶりです」な
どと会話が交わされている様子。ベルギーサポ気取りの我々はすっかり浮いている。
でも、今日はベルギーを応援するのだ。藪沢さんは熱心なレッズサポーターなのでど
んな状況でも応援となると気合いが入るらしい。                

選手が出てきた。ウオーミングアップが始まる。ベルギーの選手達が軽快な動きで緑
のピッチを走っている。ロシアの選手も気合いが入っているようだ。ロシアはこの試
合、勝つか引き分けで決勝トーナメント行きが決まる。ベルギーは勝つしか決勝トー
ナメント行きの方法はない。どう考えても両国のプライドと威信をかけたガチンコ勝
負であり、じつに興味深い一戦なのだ。ベルギーと引き分け、ロシアに勝った日本の
実力がどれほどのものなのかを間接的に知ることが出来る試合でもある。     

セレモニーが始まった。緑の芝に両国の国旗が映える。国歌吹奏の後に大きな拍手が
あり、選手がピッチに散った。さあ、ガチンコ勝負のキックオフだ。1次リーグ突破
のために勝ち点3が必要なベルギーはこれ以上ないほど良いスタートを切る。試合開
始から7分後ロシアのゴール前20メートル付近でフリーキックを得たベルギーは、
ワレムがロシアの壁を巻くようなシュートを見せ、ゴール右上隅に見事に決めた。 
その瞬間立ち上がって叫び声を上げたのだが、周囲の人は座ったままの人が多い。何
だか盛り上がりが少ない客席だった。学校の先生が多いという事もあるのだろうか。

試合の途中で横にいたおじさんが携帯テレビの音を大きくしていたので「申し訳ない
が音を小さくしてくれ!」と注意した。まったく、目の前で真剣勝負が行われている
というのにテレビを見ているとは・・・まあ日本戦の様子が気になるというのは分か
るが、ここに来ているのだったら目の前の試合に集中して欲しいものだ。テレビを見
るのだったら家で見ていればいいじゃないか。その後、ロシアも反撃を見せ一進一退
の展開が続いたが前半はそのまま終了した。ハーフタイムはのんびりムードで、長居
の日本戦が気になったが、誰も何も言っていないので、多分0:0だったのだろう。

後半に入ってすぐにスタジアム全体が騒然としてきた。長居で動きがあったらしい。
どうやら森島のゴールで日本が先制したらしい。ニッポンコールがあちこちから沸き
上がってきた。目の前で試合している選手達にとっては迷惑な事だっただろう。そん
な時ににロシアが追いついた。ホフロフが走りながらシチェフにパス、シチェフはペ
ナルティーエリアに侵入しシュートを打つが、キーパーにセーブされた。ベシャスト
ヌイフがそれを押し込んでロシアが同点!!いやあ、えらいことになってきた。  

ニッポンコール、ロシアコール、ベルギーコールがそれぞれに沸き上がり前半と違い
騒然とした雰囲気になってきた。我々は必死のベルギーコールを繰り返す。このまま
同点だとロシアが決勝トーナメントに行くことになる。意外なことにロシアコールが
段々大きくなってきた、考えてみたらロシアのキャンプ地は静岡だったのだ。チケッ
トを配布したという話もあったし、応援が多いのも分かるが、だったら最初から応援
してやれよ!という感じだった。                       

この時点でロシアは決勝トーナメントへの進出を決めたかのように見えた。しかしベ
ルギーは後半33分にムペンザに代わって入ったソンクが、ワレムが蹴ったコーナー
キックを豪快にヘッドでたたき込んで2点目! そして、今度はホールがペナルティ
ーエリアに入ったところからウィルモッツにパスを出す。ウィルモッツは左足でシュ
ートを見せ、ボールはゴール右のネットを揺らした。2点目のゴールから4分後のこ
とだった。これでベルギーは1次リーグ突破がかなり確かなものとなった。    

ところが何と終了2分前、ロシアもシチョフがキーパーを振り切ってペナルティーキ
ックマーク近くからゴールを決め、1点差まで詰め寄った。場内は騒然とした興奮状
態。叫ぶ叫ぶ!声を限りに叫ぶ。ロシアコールがものすごい。 しかし、最後の1点
が遠く、そのままタイムアップの笛が鳴った。歓喜するベルギー選手の横ではロシア
の選手が倒れ込んでいた。手に汗握る攻防の末に訪れた静寂の時間。力を出し切った
選手達に惜しみない拍手が送られていた。ユニ交換を済ませたベルギー選手達がこち
らに向かって歩いてくる。みんなで手をつなぎバンザイ、バンザイの大合唱。   

ニッポンコールが起きる。ベルギーコールが起きる。どうやら日本も勝ったようだ。
2チームの戦いを見終えて、決勝トーナメント進出はこんなにも大変な事なんだと実
感していた。日本はベルギーに引き分け、ロシアに勝った。凄いことだ。今日の試合
を見る限り、とても日本が引き分けたり勝ったり出来るチームでは無かったように思
う。日本中の目が長居に向かっている中、同時進行で行われていた名勝負はベルギー
の勝利で幕を閉じた。こんな試合を見られた事は望外の幸せである。いつまでもスタ
ンドに残り、満足感に浸っていた。                      

すれ違うベルギーサポーターとハイタッチする。「コングラチュレィション!!」 
「ユートゥー!!」素晴らしい試合だった。                  




 
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