番外編:西木村での釣り


交流間伐会イベントの合間に釣りをした。


6月20日(金)朝7時、田沢湖には波一つ無い静かな湖面が広がっていた。こう
して田沢湖を眺めるのはもう何度目になるだろうか。船着き場の浅瀬に大小様々な
大きさの魚が群れている。ウグイかヒメマスか・・釣りをする気にならないのが不
思議で、その群を静かに眺めていた。風もなく穏やかな天気で予報とは大違いだ。

秋田のたまくらさんと待ち合わせしている場所を通り越して、小波内の高橋さんの
家に寄る。釣り券を受け取り、四方山話のあと「再会の森」に立ち寄った。ブナや
カエデは元気に葉を広げていたが、勢いが無いのが心配だ。土壌改良には時間がか
かるがそれまで何とか元気でいて欲しい。7時の待ち合わせだったので、急いで車
を走らせ、交差点の商店まで走った。                    

たまくらさんの車がすぐに来た。こうして会うのは何年ぶりだろうか。そもそも瀬
音の森が出来るきっかけになった人で、その後仕事が忙しくなり音信が途絶えてい
た。瀬音の森は5年の成長をとげ、こうしてきっかけになった人とも再会出来た。
久闊を辞し、ちょうどやってきた役場の阿部さんの好意で林業センターに車を止め
させてもらい、たまくらさんの車で上流に向かう。車中で話に花が咲いたのは言う
までもない。久しぶりなのに全然変わっていないのが不思議だった。      

上流の川に入る頃には風が出てきた。河床がツルツル滑る川で、歩きに神経をすり
減らす。魚が走る影がない。雨が降り出し、風も強くなってきた。遠く日本海にあ
る台風から前線が伸びて秋田内陸地方は大荒れの天気予報だったのだ。予報が当た
りつつあるようだった。テンカラの毛針はポイントに着く前に風にあおられてしま
い、思うような釣りが出来ない。それでもフライ名手のたまくらさんはコンパクト
なキャストを続け、ヤマメを手にした。                   

私も負けずに頑張ったがしばらく釣れる気配は無かった。今日はもうダメかな・・
と弱気になりかけた時だった。岩陰に流した毛針に反応があり、ガンガンという手
応えが手元に伝わってきた。やっときてくれたのは24センチほどの岩魚だった。
いやはやボーズを免れてほっとした。その後藪下の影からヤマメを追加して、ます
ますひどくなる雨風に負けて納竿を決めた。川面は強風に飛ばされた緑の葉で覆い
尽くされ、時には葉をつけた枝までもが流されてくる。とても釣りをする状況では
ない。ここは谷底だから風をそれほど感じないが、山の上は木々が風にあおられて
大きく揺れている。                            

脱渓がまた大変だった。踏みあとを頼りに山を越え、杉の造林地の中を延々と歩い
てやっと林道に出たときは本当にほっとした。それにしても凄い天気の中を釣りし
ていたものだ。車で着替え宿泊先のクリオンに向かい、温泉に浸かってやっと人ご
ごちついた。別の場所で釣っていたハミングウェイさん、琥珀さん、岡田さんもや
ってきて初日の釣りは終わった。                      


21日午後3時半交流間伐会が終わった。さて、温泉に行くか、コテージで寝るか
、釣りに行くかと考える。懇親会までには帰らなければならない。往復の時間を差
し引くと釣りが出来るのは正味1時間だ。「よし、行こう!」決めた途端に動き出
す。ハミさんと琥珀さんは本流を釣るとのこと。それなら、行ったことがない沢に
入ってみよう、と身支度をして車を走らせる。目当てがあった訳ではない。昨日た
まくらさんと行こうかと思っていた小さい沢に行ってみようと思ったのだ。   

二股の下から入渓した。橋の手前の流れで6寸のヤマメが出た。昨日の雨で活性が
上がっているようだ。そのまま釣り上がると橋の下のポイントで大きなライズ!心
臓をドキドキさせながらそのポイントに振り込む。流れる毛針に大きな水しぶきが
上がった。しかし、それを外してしまった。天を振り仰ぐと、上から覗いていた地
元のおじさんと目があってしまった。思いっきり笑っていた。         

「今日はいい・・」興奮してくる気持ちを抑えながら上に行く。細い流れに毛針を
落とすと、それを引ったくるように水しぶきが上がる。会わせた竿先が曲がる。流
れに乗って下流に走る大きな魚をいなし、抜き上げる。「重い!」河原で跳ねてい
るヤマメは8寸弱の丸々太った良型だった。こんな良い型のヤマメは久しぶり釣っ
た。写真を撮ってしばしその素晴らしい魚体に見とれていた。さらにその上の木の
枝が覆い被さっている淵に毛針を落とす。一発目にガツンという重い当たりがあっ
たが、かからなかった。そこは何度も流したがその後は何の反応も無かった。  

とにかく1時間しかないという焦りがあり、どんどん上に行くとそこは両面護岸さ
れた広い河原だった。堰堤が階段状に続いているようだ。ここまでで2尾、それも
型がいい。時間はあと30分。堰堤の流れだしに毛針を打ち込むと、1投目に当た
り!抜き上げると7寸オーバーのヤマメだった。「ここにはいる!」直感が働き、
ここで粘る。5分くらい振り続けた時だった。小さいアタックがあり、それに合わ
せをくれると重い手応え!抜き上げようとしたらハリが外れた。その魚は驚いたよ
うに2度3度と全身を見せて飛び上がり、まるで外したこちらをバカにしているよ
うでもあった。いや、でかかった。                     

気を取り直し、反対側の流れだしを攻める。すこし暗くなってきて毛針が見えにく
くなっていたのを水しぶきが救ってくれた。大きな水しぶきが上がり、会わせた竿
先がグンとひかれる。右左へ泳ぐ魚をエイヤッと抜き上げると8寸ほどの岩魚だっ
た。「おおっ、イワナだ!」しばしイワナに見とれていたが、時間が残り少ないこ
とを思い出し、護岸を登って次の堰堤に急いだ。ここでも粘り6寸オーバーのイワ
ナを釣った。1時間の釣りで5尾の型揃いというのは初めての経験かもしれない。
特に西木村でこんなに釣れたのは初めてだ。とにかく嬉しかった。       


昨夜の酒に酔いつぶれて寝ていた朝の4時。琥珀さんの声で起こされた。「4時だ
よ〜ん、釣りにいくよ〜ん、はよ行かんばい!」とコテージのドアを開けて叫ぶと
どこかに去っていった。寝ぼけまなこで起き出してみんなで何処に行こうかと相談
する。私はフクロウさん、old-beanさんを昨日釣れた場所を案内することになった
。ハミングウェイさんと白瀧さんはその上の沢に入ることになった。我々は5時半
に来るというold-beanさんの友人二人と合流してから行くことになった。7時半の
朝食には戻って来なければならないので、これまた実質1時間の釣りとなる。  

時間通りに合流した二人を加え、2台の車で昨日のポイントを目指す。フクロウさ
んが初テンカラということで先行してもらい、昨日釣れたポイントを案内した。橋
の下のポイントで大きな水しぶきが上がったのだが、残念ながら合わせられなかっ
た。その後もフクロウさんに先行してもらったのだが、昨日のような活性が無く、
苦戦していた。ラインが軽く、毛針が遠くに飛ばないのが問題のようだった。その
ラインが絡まって直している間に、あろうことか横で振った私の毛針にヤマメがか
かった。何だか申し訳ないような気分だった。                

昨日大きなイワナが釣れた堰堤の流れ出しに行って竿を振ってもらった。日が昇っ
てきて水底まで見通せる状態でのテンカラ淵釣りは難しい。時間も迫ってきてもう
ダメかなあという気分だった。old-beanさんは護岸の上に上がっており、フクロウ
さんも諦めたので、最後に私が振らせてもらった。すこし粘っているうちにライズ
があった。これはいけるかも・・としつこく毛針を振ったらいきなりアタックが来
て水しぶきが上がり、合わせたラインの先には良型のヤマメが釣れていた。釣って
もらわなければ意味がないのに、自分で釣っては仕方ない。でも嬉しかった。  


東京に帰るバスを見送って解散し一人で午前中のみの釣りに行った。朝入った川の
上流に入ろうと決めていたので迷わず車を走らせた。堰堤から入渓し、落ち込み中
心に毛針を打つ。太陽が中天にあり、遮るもののない河原は半袖でも暑いくらいの
気温になっている。この条件で魚が釣れるはずもないなあ・・などと思いながら、
西木村の最後の時間を過ごしていた。昼前には出発しないと帰る時間が何時になる
か分からない。8時間の運転が待っているので、体力を消耗したくない。    

昨日釣れたポイントも今朝釣れたポイントも音無し。そろそろ上がろうかと思い出
した時だった。何基めかの堰堤で小さい反応があったので粘る。扇形に繰り返し毛
針を打ち続けているうちに水しぶきが上がってヤマメが釣れた。6寸オーバーの綺
麗なヤマメだった。気を良くして同じ場所で粘っているうちに、またしてもアタッ
クがあり同型のヤマメが釣れた。もう充分と満足して納竿とした。堰堤が終わり、
天然河川になる場所にたまくらさんとひらり〜さんの車が止めてあった。追おうか
とも思ったのだが、帰る時間になっていたので、そのまま脱渓した。こうして三日
間の西木村での釣りが終わった。細切れではあったが、それなりに充実した釣りが
出来た。また、来年もこうして釣りをしたいものだ。             




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