再会の森のヤマメ


秋田県西木村小波内「再会の森」でヤマメと遊ぶ。


5月30日の朝6時半、田沢湖畔に立っていた。昨夜から寝ずに走ってやってきた
のは釣りをするためだけではない。西木村で「ふれあいの森推進協議会」の会議に
出席するためだ。昨年同様会議までの半日あまりを釣りで楽しもうという魂胆だ。
田沢湖の桟橋には沢山の魚が群れていた。小さい羽虫が羽化するのをゴボッゴボッ
っとライズしながら食べている。その様子に見とれていたのだが、あの魚はヒメマ
スだったのだろうか、後になって釣ってやれば良かったと気づいた。毛針があるの
だから釣れたはずなのに、千載一遇のチャンスだったのかもしれないのに・・・ 
まだまだ釣り師に戻りきっていないなあと反省させられた。          

橋のたもとの店で日釣り券を買い、目的の小波内川に着くと岩手ナンバーの車が止
まっていた。下流からその車の主と思われる餌釣り師が鈴をけたたましく鳴らしな
がら上がってきたので話をする。ここ2週間くらい雨が無く、平水よりも10セン
チくらい減水しているとのこと。釣果も芳しくないとのことだった。それにしても
今日は暑くて風が強い。台風が近づいているので秋田では南風のフェーン現象にな
っているようだ。もう27〜8度くらいになっているようだ。最高気温は30度を
越すと天気予報では言っていた。                      

身支度をして釣りに入る。下流に下り、川に降り、仕掛けをセットする。「良い釣
りが出来ますように・・」と心の中で呪文のようなつぶやき。両岸の緑が目にしみ
るようだ。気温が高いので水の冷たさが心地よい。送水管の下のプールに6寸から
7寸のヤマメが群れている。そおっと近寄り岩の影からパチンコで毛針を飛ばす。
流れに乗った毛針に6寸くらいのヤマメが反応し追ってきたが5センチ手前でUタ
ーンしてしまった。もう一度パチンコで攻めたが見向きもしない。竿を上げて毛針
を振り込んだら全てのヤマメが蜘蛛の子を散らすように深みに逃げ込んでいった。
ちょっとばかり今日の釣りの困難さを予感した。               

底が青黒く、どれだけ深いか分からないようなプールがあった。そこには何と無数
の大きな魚の影が揺れ動いていた。もちろん毛針を打ったのだが、反応はまったく
無かった。これだけの数の魚がこの1カ所に集まっているのは、たぶん水量が少な
いせいなのだろう。雨が降って水量が増せば、ここから各所の餌場に流れていくの
だろうと思われた。淵の魚は毛針には見向きもしない。食い気のない魚に毛針は無
力だ。淵はあきらめて瀬でやる気のある魚を探す。              

それからぽつぽつと小さいヤマメが出て遊んでくれた。6寸に満たないヤマメばか
りでいささか要求不満だが、大きな魚は目で充分楽しんだので満足していた。遡行
するにつれて、昨年との違いが顕著になってきた。昨年29センチと27センチの
岩魚を釣ったポイントはまったく魚の影が無かった。川の流れが変わったのか、水
量が少ないからなのか。そのポイントを当てにしていただけにショックだった。 

結局6寸を頭に10尾のヤマメに遊んでもらった。最後は振り込んだ毛針が着水前
に舞い上がるような強風になってしまい、釣りにならなかった。まあ、こんな天気
でこの暑さで、この水量では致し方ないところだ。いつもながら渓流釣りは言い訳
が多い。まるで言い訳を探しながら釣りをしているようなものだ。       

車に戻ってクーラーから冷えたビールを取り出して飲む。何とも幸せな一瞬だ。コ
ンビニのおにぎりも河原で食べるとじつに美味しい。川向こうの大きなヤナギの木
にカワセミのつがいがやって来てさかんに鳴き交わしている。羽のエメラルドグリ
ーンが強い光に反射してキラキラしている。ヤナギの綿毛が飛ばされて川面を大量
に流れてくる。沢靴を脱いだ素足に風が心地よく通り抜けていく。       



●釣りのトップへ戻る