青葉ヤマメに会いに行く


那須の渓流で新緑と青葉ヤマメを堪能した。


釣りを忘れた釣り師のリハビリ釣行は那須の渓流だった。かつてのホームリバーは
ここ数年訪れる事もなく記憶の中に沈んでいた。ある人から「あの川が調子いいら
しいよ」と囁かれ、私の中の何かにスイッチが入った。そうだ、釣りに行かなくち
ゃだめだ。原点は釣りだったんだから、もう一度原点に戻ろう・・。      

同行してくれたのは茨城のFFマンのNOBEさん。忙しい仕事をかき分けて休みを取
ってくれた。こんな時は二人の方がいいので有り難い。天気予報は雨だったのだが
、思いのほかの好天で暖かい日差しに恵まれた。待ち合わせ場所で久しぶりの挨拶
を交わし目的地へ向かう。先客が何組かいるようだ。             

沢靴の紐をキュッと締めて歩き出す。ここから約1時間のアプローチは新緑のトン
ネルを歩く。サワグルミ、トチ、カツラ、ブナ・・大きな緑の屋根が回廊となって
廃道になった林道を覆っている。右下にさざめく瀬音を聞きながら、NOBEさんと
四方山話をしながら歩を進める。毎朝2キロの歩きが習慣になっているせいか、以
前よりも歩くことが苦にならない。沢靴は足にフィットして歩きやすい。何より、
久しぶりの釣行に足も喜んでいるのか、やけに足取りが軽い。         

とある堰堤の上から入渓した。いきなり足元から岩魚が走った。魚が瀬に出ている
のだ。浅く透明な開きのそこかしこからヒュン、ヒュンと影が走る。ポイントに近
づく前に魚たちは大岩の中に逃げ込んでこちらの様子を見ているようだ。こんな場
所では何も出来ない。水深のある瀬でエルクヘアカディスに水しぶきが上がった。
反射的に会わせると手元にガンガンという重さが伝わる。「よし!」っと思った瞬
間、重さが消えた。「バレた・・・・」久しぶりの釣りでは致し方ないところ。 

昼まで反応はあるが掛からない状態が続く。広く明るい河原で昼休みにする。遠雷
が聞こえ心中穏やかでなくなる。ミニ缶ビールで午後の大釣りを夢見て乾杯する。
すぐ横の淵で小ヤマメがライズしているのが腹立たしい。           
「この野郎めぇ〜」と戯れに毛針を振ったら、何とチビ岩魚が釣れた。まさかこん
な場所で釣れるとは・・驚きつつ、なおも毛針を振ったら今度は5寸のヤマメが釣
れた。これにはNOBEさんもビックリ、私もビックリ、いったいどうなってんの。

雨が降ってきた。合羽を着る間にも大粒の雨が一面に水しぶきを上げ始めた。釣り
は中断し大きなカツラの木の根元で雨宿りをする。NOBEさんがいきなり「痛い痛
い、これ雹だ!」足元を見ると5〜6ミリの氷の玉がコロコロ転がっている。雹が
降ってくるとは思わなかったので本当に驚いた。これを機に気温がグンと下がり、
水温も下がってきた。昼にはあれだけハッチしていた水生昆虫もあわてて巣に戻っ
てしまったのか、まったくハッチが無くなってしまった。           

雨足はなおも激しさを増し、二人は下流へ移動する。魚の姿をたくさん見た堰堤の
上に戻り、魚の影を探すが魚の影も見えない。先ほど戯れに釣った淵でしつこく毛
針を振っていたらバシャッと派手に水しぶきを上げて6寸のヤマメが釣れた。何故
か徐々に形が良くなっている。魚は瀬から淵に沈んだようだ。         

最初に入渓したポイントに戻り堰堤上の淵に毛針を振る。雨は上がったが気温は低
い。毛針に大きな水しぶきが上がり、瞬間の合わせが決まりギラギラと水中で暴れ
るのを抜き上げた。体高のある大きなヤマメだ。メジャーを当てると21センチ、
7寸のヤマメは久しぶりだ。しばし見とれて陶然となる。銀地のヤマメの体側には
鮮やかな朱が刷毛で掃いたように染まり、濃い緑のパーマークがコントラストも鮮
やかに浮かび上がる。珠玉の美。                      

さらに下り、橋下のポイント。NOBEさんが流した後で一カ所だけ気になったので集
中的に毛針を打った。一度出て、毛針の手前で反転した。さらにしつこく毛針を振
ったら辛抱できずにたまらずヤマメが飛び出した。これを抜き上げて測ったら同じ
く7寸の良形ヤマメ。青葉ヤマメの名に恥じぬ、まるまる太った別嬪さんだった。

NOBEさんにまだ型が出ていなかった。下りながらとっておきのポイントを教える。
大きな淵の上にある深瀬だ。淵の落ち込みを慎重に登り、岩の影からキャストする
NOBEさん。その右腕が大きく上げられ、左手が忙しくラインをたぐる。「釣れた」
慎重にネットに納められたのは6寸のヤマメだった。NOBEさんの小さいVサイン 
が大きな喜びを表していた。                        

最後のポイントは橋の下にある。ここには必ず何尾かの魚が定位している。過去何
度も釣れないときの最後の望みの綱として釣りをしたところだ。NOBEさんにそこを
譲り、私はその上に入る。渓相がすっかり変わっていてポイントが読めない。魚の
反応は全くない。上流の深瀬に毛針を振る。流芯からギラリと魚の反応。俄然やる
気になった。毛針を変え、慎重に振る。2投目、派手な水しぶきが上がった。瞬間
の合わせに魚が乗り、ガンガンと手元に響く重い手応え。この手応えが全ての煩悩
を消してくれる。最後の青葉ヤマメも7寸だった。              

新緑に染まった渓流の中で青葉ヤマメと遊ぶ。至福の1日が終わった。     


 
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