この悔しさを忘れまい


10年目にして巡ってきた初タイトルへの挑戦!ナビスコカップ決勝戦を見て。


2002年11月4日、国立競技場にてナビスコカップ決勝戦が行われた。結果は鹿島
アントラーズが浦和レッズを1対0で下し、チャンピオンとなった。この試合を間近で
観戦し、悔し涙を流し、唇を噛んで、両拳を握りしめ、とぼとぼと駅まで歩き、やけ酒
を飲んでふて寝して、夜中に目が覚めて悔しくて寝付けず、この文章を書いている。 

どちらが勝ってもおかしくない試合だった。確かに鹿島アントラーズに一日の長があり
、基礎テクニックも戦術も優れていたかもしれない。でも、それだけで勝敗は決まらな
いのがサッカーであり、未熟なチームが勝つ事も往々にしてあるのがサッカーというも
のだ。浦和レッズが勝ってもおかしくない試合だったことは間違いない。事実、あのシ
ュートを落ち着いて蹴っていれば・・・という場面は何度もあったのだ。      

結果として決勝点になったのは小笠原のシュート(枠をとらえていなかった)が井原の
肩にあたり、角度が変わってゴールに吸い込まれたものだった。しかし、この1点だけ
でも負けは負けだ。目の前で優勝の喜びに湧くアントラーズサポーターを見ながら、自
分たちが手の届かなかった悔しさを噛みしめる。目の前で優勝を決められるのがこれほ
ど悔しいものだったとは・・・。リーグ戦で繰り返される勝敗とは、ひと味もふた味も
違う重さのある負けだった。                          

サポーターの数も応援も浦和が圧倒していた。風に翻る何千本ものフラッグが真っ赤に
染まった国立のスタンドを埋め尽くす光景は鳥肌が立つほど素晴らしかった。声と手拍
子だけの応援が圧力をもって選手の後押しをするのもいつも以上だった。選手もそれに
応えて必死に戦った。一進一退の攻防が続き、惜しい場面や危ない場面が交互に展開さ
れ、絶叫につぐ絶叫の連続だった。試合開始からあっという間に時間がたってしまい気
が付いたら前半が終わっていた。ボール支配率は65対45くらいでアントラーズが押
している。ひやりとする場面が多かった。                    

後半になると浦和の選手に疲れが出てきた。本山にマンマークで山田が付いたため、浦
和の右サイドのスペースに空白が出来、そこをアウグストが徹底的に突いてくる作戦が
効き、何度となく危ない場面が繰り返される。トゥットや永井がケアをするようではア
ウグストを止められるものではない。左サイドの平川も小笠原に抑えられて前に出られ
ない。こんな状態の時に不用意な横パスをカットされてアンラッキーな失点をしてしま
った。                                    

スタンドの絶叫と一瞬の静寂・・・私は頭を抱えてうずくまってしまった。その時、す
ぐ後ろから大きな声がかかった。「まだある。落ち着け!これからだ!」その声にハッ
としてすぐ前を向き、応援を続けた。「ウラ〜ワレッズ」「ウラ〜ワレッズ」思いっき
り手を叩き声を張り上げる。まだまだ時間はある。逆転できるはずだ。ここで落ち込ん
ではいられない。                               

オフトは永井に変えて田中を投入し流れを変えようとする。ところがマッチアップする
のがアウグストであり、田中はなんだか窮屈でやりにくそうだ。後ろにファビアーノが
復帰したせいか、アウグストがいきいきと前に出てくるので、田中がディフェンスに回
るような羽目になってしまった。これはオフトも計算違いだっただろう。流れを変える
どころか手詰まりを助長するような結果になってしまい、田中は攻めでも機能しなくな
ってしまった。                                

前がかりになった浦和に対して、鹿島は固い守りとするどいカウンターで対抗する。何
度もエウレルや柳沢がゴール前に突っかける場面が出てきた。その都度俊足の坪井がク
リアする。坪井は素晴らしい活躍だった。試合前にナビスコカップニューヒーロー賞を
受賞し、はにかむような笑顔を見せていたが、その賞に恥じない活躍ぶりだった。  

オフトは井原に変え、室井を前線に送る。ヘディングの強さを生かしたパワープレイを
しようというのだ。残り時間は少ない。ロングボールに室井と秋田が競り合い、こぼれ
玉をトゥットやエメルソンが狙うという展開だったが、こぼれ玉はことごとく鹿島に出
る。この辺が試合巧者といわれる所以だろうか。最後の最後で固いディフェンスをこじ
開けられない状態が続く。                           

横パスをカットしたトゥットがキーパーと1対1になり右足を振り抜いたが、ボールは
無情にもキーパー曽ヶ端の正面に・・・。エメルソンが3人のディフェンスを引き回し
ながら放った矢のようなシュートもキーパーの正面だった。膠着状態のまま時間は過ぎ
、残り5分・・・3分・・ロスタイム!となってしまう。残りわずかという時に右45
度からのフリーキック、蹴るのはエメルソン。振り抜いた右足から繰り出されたのはシ
ュートではなくてクロスだった。それをクリアーされた瞬間にタイムアップの笛が鳴っ
た。最後はシュートで終わって欲しかった。                   

鹿島サポーターの歓喜の声が遠くの方に聞こえる。周囲はシーンとしている。整列した
選手はグランドコートをはおり、すぐに表彰が始まった。このとき我々は準優勝なんだ
と気づいたが、準優勝という喜びはまったく無かった。選手も同じだ。ロイヤルボック
スで表彰を受けるためにすぐ横の階段を選手が登る。井原を先頭に福田、山岸、内舘、
エメルソン、田中、平川、室井、坪井、鈴木、トゥット、山田、石井、西部、路木、最
後に永井が目の前を登っていく。みんなに声をかけずにいられなかった。みんなよくや
った。                                    

自分たちの表彰が終わり、優勝した鹿島の表彰式のあいだ、選手達は様々な表情を見せ
てくれた。福田は身じろぎもしないでじっと表彰台を見上げていた。横を向いている選
手、下を向いている選手、何かを話している選手、いずれも悔しさをかみ殺している。
なかでも印象的だったのは坪井だった。鹿島の表彰が終わった瞬間、首にかけられた銀
メダルをさっと外し、グランドコートのポケットに入れたのだ。坪井の気持ちが痛いほ
ど伝わってきた。一番悔しいのは選手達なのだ。                 

坪井、平川、鈴木、田中・・・君たちの活躍に浦和レッズの未来はかかっている。  
けしてこの悔しさを忘れまい。目の前の栄冠をつかめなかったこの悔しさを忘れまい。

選手が挨拶のために真っ赤に染まったスタンドに向かって歩いてきた。「ウィーアーレ
ッズ!」「ウィーアーレッズ!」と叫ぶ声が不覚にも涙声になってしまった。    





 
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