水晶谷調査山行

2004年6月12日〜13日
長南、大村、関根、坂本、藤木(報告者)


奥秩父、滝川源流水晶谷にて在来岩魚と源流部の環境の調査を行った。

前日の雨で延期を検討したが、出会いの丘の雨量計ではさほどの降水ではなかったようなので予定通り決行となった。明け方までの雨も上がり、空には青空ものぞいてまずますの天気だ。
パイロット道路から登山道に入り、釣橋小屋への踏み跡をたどること3時間で滝川の本流に降りる。若干増水気味だが遡行には問題なさそうだ。

しばらくは快適なゴーロの河原が続くが、三本桂沢出合いを過ぎると谷は狭まり曲がりくねったゴルジュ帯に突入する。川が左に大きくUターンする難所で前をへつっていた鵜住居さんが滑落した。さいわい怪我はなかったが、この時のはずみで首から下げていたカメラケースの蓋が開き、カメラを落としてしまってひどく落胆していた。私もここで細引きをだそうとして確保器を流してしまった。

少し行くと左岸側の岩壁が崩落し川をせき止めて大きなプールになっている場所につく。20センチくらいの岩魚が多数泳いでいるのを確認したので日向ぼっこがてら岩魚と遊ぶ、上から見ると明らかに在来岩魚と異なるアメマス系の個体が確認できる。この上流で出合うブドウ沢に異種イワナを放流されたうわさがあるが、どうやら間違いないようだ。
ブドウ沢出合いから川は水晶谷と名前を変える。この下が通過に神経をつかう難所なのだが、前回行った時より残置ハーケンとシュリンゲが増えていて、ザイルを出すことなくクリアできた。ここから竿を出して遡行する。イワナの機嫌は良いようで、20センチクラスながら順調に釣れる。今回の調査はブドウ沢に放流されたという異種イワナの汚染が本流に波及していないかの確認もかねていたのだが、この日に釣れた個体の中に混血が疑われるものはいなかった。どうやらその心配は杞憂に終わったようで安心した。

さらに遡行し、古礼沢の出合いから本格的な調査に入る。釣れた魚を撮影用の水槽に入れ、カメラで魚体を撮影した後、DNA鑑定用に脂ヒレを切り取り、一匹分づつアルコール入りのバイヤル瓶に保存する。今回は切り取りに使うハサミもその都度アルコール洗浄して粘液の付着によるサンプルの汚染を防ぐ事にしたので、一連の作業は結構な手間になる。kazuyaさんが竿を出さずに専念してくれるが頭の下がる思いだ。
途中に快適そうなテン場を見つけ、荷物を降ろして調査を続ける。出合いからすぐは落差のある渓相が続くが、その後は平坦な河原が続く。それが終わってすだれ状の滝を前衛に短いゴルジュがあるが、どうやらそこが魚止めのようで、この日の調査はここまでで終わる。確保したサンプル20匹分。
夜は盛大な焚き火と各自腕をふるった豪華なメニューで宴会となるが、本格的に振り出した雨のため9時半ごろに就寝となった。

夜中にものすごい土砂降りに見舞われ、どうなることかと思ったが朝には雨は上がった。時折パラパラと雨粒が落ちてくるがカッパを着るほどではない、関根さんが作ってくれた雑炊で体を温めて出発。DNA鑑定に必要なサンプル数は1グループ30匹、残りの10匹分をなんとか確保したい。
増水して濁りも入っているため今日は関根さんと長南さんが餌釣りで挑戦するが、2人とも調子よく釣り上げてゆく、kazuyaさんと私で撮影とサンプル確保をするが休む間もないほどだ。魚止めの手前で予定数を確保し調査は無事に終了した。

昨日調査を打ち切ったゴルジュの上で、確認のために再度竿を出してみた。居れば間違いなく出るはずのポイントでもまったく反応はない、関根さんの竿にも魚信はないようで、やはりあの滝が魚止めになっているのは間違いないようだ。
確認が済みあとは谷を遡行するだけだ、増水してはいるがさすがにここまでくると遡行に難渋することはない。順調に登って行くと核心部のゴルジュに突入する。適度なスリルと緊張を楽しみながら遡行してゆくと面蔵の滝に着いた。手を広げれば届きそうな幅2m位の垂直な岩壁の奥に15m位の直瀑がかかり圧倒させられる。これまでゴルジュの中の滝はいくつか見たが、これほど狭い廊下に懸かる滝は初めてだ。自然の造詣の深さに感心させられる。
各自記念撮影してから滝を越えると、突然目の前に雁坂トンネルの排気塔が現れる。さすがにこんな山奥にこれだけの建造物があると異様な雰囲気である。外壁は自然石風に化粧仕上げされたコンクリートパネルが張られ、なかなか洒落た外観だ。「こんなもの沢屋しか見ないんだからコンクリの打ちっぱなしでいいのに」と鵜住居さんが毒づく。この深い谷にこれだけの平地を作るのにどれだけ山を削り土砂を盛ったのだろうか、空が開けて日当たりが良くなった斜面にタラの木が大きく育っていた。
遡行記録によるとこのあたりは工事の影響で水が枯れていると言うことだったが、増水のせいかまだまだ豊かな水量がある。さらに遡行するとガレた岩が谷を埋め、左岸からの支沢が出合うところで本谷の水が切れた。ここで昼食を取る。本当はまっすぐ水晶山に詰めたいところだが、時間がないのでこの沢を詰めて雁坂小屋に出ることにする。

出合いから狭間に滝が懸かり困難な遡行を予感させるが、「いや、たいしたことないですよ」と長南さんは言う。最初の滝を越えると水流の直撃を受けるシャワークライム、合羽を着ても一瞬でズブ濡れになる。頭から冷たい水をかぶりながらホールドを手探りで探して登って行く、しっかりした手がかりがあるのだが、以外にボロい岩壁で下手な岩をつかんでしまうとボコッと抜けるので気が抜けない。ここで初めてザイルを出す、長南さんが岩の割れ目に支点用のハーケンを打ち込み、手際よく後続を確保して無事に通過した。
その後も倒木に行く手をふさがれる狭い滝、すべりそうな急傾斜のナメ滝と、普通の人には十分「たいしたことある」遡行が続く。ようやく空が開けてきたところで水が切れた、その上が二股になっているが地形図では右が小屋に近い。広大なガレ場を落石に注意しながら登ると笹薮にダケカンバやコメツガの樹林帯に出た、ここまで登ると和名倉山がほぼ同じ高さに望める。笹もスズタケではなくミヤコザサに変わっていて、下では見られないオガラバナなどの木が亜高山帯に到達したことを知らせてくれる。もう稜線が近い、最後に息が切れる藪こぎの急斜面を登るとドンピシャで雁坂小屋に着いた。

小屋のベンチで小休止のあと黒岩尾根に続く登山道で下山、出会いの丘に戻ってきたときにはちょうど日が暮れかけていた。

シオジ(左)とサワグルミ(右)の芽生え

滝川本流の非在来種と思われる個体

水晶谷の在来種

オククルマモグラ(アカネ科)6枚の葉が特徴

ゴゼンタチバナ(ミズキ科)亜高山帯に分布

天然カラマツ(通称:テンカラ)

記録写真
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