白神山地を歩く


10月12日 あこがれの白神山地を歩く

秋田の米谷さん(たまくらさん)と待ち合わせたのは11日の昼のことだった。米内沢
の駅で待ち合わせ、またぎドライブインで「またぎラーメン」を食べ(私のだけ肉が
入ってなかった)阿仁合のマタギ、西根さんの話を聞き(詳しくは別項参照)、夕方
夕焼けの能代平野を走り、宿泊する八森町の三四郎旅館に着いたとき時計は6時を回っ
ていた。 急いでハタハタ館温泉につかり、宿に帰って夕食。これ以上ないというく
らい豪華な海の幸をたらふく詰め込み、その後はパソコン通信の話やら、フライの話
やら、釣りの話、ネコの話・・・気がつくと時計は12時を回っている! 明日はいよ
いよ あこがれの白神山地だ。                        

9時 八森駅で友人の奥村さんと待ち合わせ、青秋林道へと向かう。真瀬川に沿って続
く林道の入り口にゲートがある。入山者はここで登録を済ませて入山することになる。
ゲートの横に山神様(さんじんさん)があり、しめ飾りが真新しい。 聞けば今日が 
祭日なのだそうだ、神主さんもいる。石塔の両側に紅葉したイタヤカエデをそなえてい
る、この辺りの風習なのだそうだ。 今年は紅葉が遅いと言っていた。お供えは、金目
鯛、お米、お餅、野菜、山ぶどう、あけびなど山海の恵みが三方の上に並んでいる。 
 
ゲート横のロッジ、ここで入山登録をする  ゲートの横の山神様、カエデが鮮やか

青秋林道を走る。グングンと高度を増す舗装された林道。しかし、その周辺は皆伐され
た荒れた山が続くばかりだ。 2日前、元営林署長の虻川さんと飲みながら話したこと
を思い出す。虻川さんが言っていた「 青秋林道を走ってみなさい、民営の山と国有林
の違いが良く分かるから・・・・」この荒れた山は、某企業の持ち山なのだそうだ。そ
して国有林とはこの裏側、世界遺産に指定された白神山地コア部分のことなのだ。この
荒れた山が元の豊かな山に戻ることはもうないだろう、植えてある杉もこの過酷な自然
条件では採算に合うかどうか以前に、成長することすら疑問である。        

林道終点に10台くらい止まれる広さの駐車場とトイレが建っている。 入山者はここで
トイレを済ませて山に入る、この先に施設はない。 登山道から二ツ森方向に歩き、展
望台で白神山地コア部分を遠望する。                      
何と言ったらいいのだろうか・・・しばらく言葉を失う。紅葉したブナの木の一本一本
がまるで入道雲のようにモコモコと盛り上がっている。それが見える限り続いていて、
山の形を作っている、本当に豊かな森だ。 先ほどの荒れた山とは文字通り雲泥の差が
ある。「 国有林を民営化するなんてとんでもないことだ! 」と虻川さんが言った言
葉が実感を持って胸に迫る。                          

コア部分を歩く時間がなく、景色を惜しみながら林道をくだる。 ゲートの所で一休み
して沢(真瀬川支流一ノ又沢支流「濁沢」)を眺めていると「 あっいた!」ヤマメだ。
25〜6センチはありそうなヤマメが流れに身をまかせながらユラユラと定位している。
たまくらさん、奥村さんカミさんと集まってきて「 大きいね 」「 やっぱりいるん
だよ 」などとワイワイヤマメはさも迷惑そうに下の流れに消えていった。 ゲート横
では山神様の祭が始まっている。神主さんを先頭に神妙な純朴そうな顔が並んでいる。

11時 車は藤里町の岳岱風景林(巨木ブナ林)を目指す。 海沿いの道から国道7号線
で内陸へ、きみまち坂の手前を左折し藤里町へ入る。そして川沿いに黒石林道へとひた
すら走る。途中、何度も渓谷の写真を撮る為に車を止める。紅葉の始まりと深い緑、白
い流れと黒い岩のコントラストが素晴しい・・・が たまくらさんと私の口から出るの
は「 あそこ良さそうだね 」「 ウン 絶対デカイのがいる!」こんな会話ばかり。
カミさんと奥村さんはただ あきれるばかり。                  

岳岱風景林に着く、ここからは徒歩で山に入る。歩き出して3分、突然 巨大なブナ林
に入る。とても抱え切れない太さのブナの木、巨木がズラリと並んで不思議なくらい静
寂な世界を作っている。静かな、とても静かな世界にひたり4人とも無口になる。  
何百年も昔からここにいたブナの大木が、そっと見下ろしているせいか話すのも自然と
小声になってしまう。                             

ひときわ巨大なブナの木に逢う。その根はまるで意思を持って湧き出したかのように盛
り上がり、幹は何条もの筋肉を束ねたかのようにゴツゴツと筋張り、巨大な枝は四方に
広がり空を覆い隠す。枝の又からハリギリやカエデが育っていて、見上げる幹の途中に
シダが生えている・・・まるで一つの宇宙を育てているようだ。          
巨木を見るということは時間を見ることだ。この巨大なブナが生まれて、この大きさに
なるまで何百年かかったか? というより、その何百年かを 今、目の前に見ている。
そう この姿が時間そのものなのだ。 そして、このブナは何百年ここにいて、虫や鳥
や動物、そして人間を幸せにしているのだ。                   

岳岱風景林の核心部分に行く。息を飲む巨大なブナの木、樹高30メートルはあろうか?
それが何本も並んで林になっている。日本にこのような林があろうとは!・・・・・・
ブナと言えば、雪や風と闘うゴツゴツとした姿を思い出すことが多いが、ここのブナは
まるで違う。 のびのびと上空に枝を伸ばし、スラリとした幹を持つ。天井を覆う細か
い枝と豊かな葉。 地面というより上質のカーペットとも言える柔らかい腐葉土。  
こんな風景に出会えるなんて思ってもいなかった。 本当に幸せ者である、案内してく
れたたまくらさんにひたすら感謝したい。                    

帰り道、堰堤のプールで40〜50センチの岩魚が何尾もクルージングしてるのを双眼鏡
で見た。白神山地の豊かな自然がゆったりと双眼鏡の中を泳ぐ・・・・思わずため息が
出てしまう。                                
そして 目を閉じると、静かなブナの林と空高い所から聞こえる葉擦れの音・・・・
一生忘れられない景色になりそうだ。                     
走行 1645キロメートル 秋田の旅は、ひたすら充実した旅だった。たまくらさん
奥村さん本当にありがとうございました。