阿仁マタギ物語



10月11日 秋晴れだった、米内沢駅で秋田市の米谷さん(たまくらさん)と待ち
会わせたのは12時。 家内と私と米谷さんの3人で、阿仁マタギ西根さんに会いに
行った。 西根さんは現役のマタギであるとともに又鬼山刃(ナガサ)の製作者と
しても知られている。                           
西根さんはにこやかに応対してくれ、その話は多岐に渡り、めくるめくように時間
が過ぎてアッという間に約束の4時になってしまった。 その貴重なマタギ語りを
今回から5回に分けて『阿仁マタギ物語』として掲載する。          

『阿仁マタギ物語』

1996年11月  冬号   第1回  阿仁マタギ西根稔氏 マタギを語る     
1997年1月  春待号 第2回  阿仁マタギ西根稔氏 初めての熊撃ち    
1997年3月  春号  第3回  阿仁マタギ西根稔氏 ナガサを語る     
1997年5月  初夏号 第4回  ●マタギの起源の話 ●岩魚の話      
1997年7月  夏号  第5回  ●熊の交尾の話 ●熊手の話        



第一回 阿仁マタギ西根稔氏マタギを語る


阿仁町は秋田県北部ほぼ中央に位置する町で、人口の26%以上が65才以上という
高齢化の進んだ町でもある。この町の猟友会は通称『阿仁マタギ』と言われ、日本
はおろか世界にまでその名が知られた猟のプロ集団である。町には 今、80人くら
いのマタギがおり、冬になると活発に活動を始める。鉄砲を持っている人は全てが
猟友会に入らなくてはならない決まりになっている。             

昔から、大阿仁(おおあに)、阿仁合(あにあい)と2つの猟友会に分かれていた。
これを統一するのが大変だったそうだ、もともと猟の縄張りが厳しく、内部をまと
めるのが大変で、決めごとをまとめるだけで10年間もかかってしまったそうだ。 

阿仁マタギの狩猟技術は日本一、組織として徹底しているのも阿仁マタギだけで、
阿仁のマタギは猟のプロだと胸を張る。 20人くらいで一回の猟をする。その時 
その時でシカリ役の人はいるが、昔でいうところの 信頼され心服されてシカリを
まかされている人は、今はいない。                     

マタギは1里(4km)を1時間で歩く。深い山の中を獲物を追って、道の無い所を!
・・・信じられない速さだ。 西根さんはこんな話をしてくれた。       
「 最近よくマタギが猟をするとこを取材したいがら山さ連れでいってけれ、と訪
ねで来る奴がいるんだ。山歩きは得意だからなんとか連れでいってもらえねがって。
ワシにはそいつが本当について来れるが一目見ただげで分かるんだ。例えば、いつ
だったか東京から若い三人組が来て山さ一緒に行きでって言うんだ。足だば自信あ
るがら一緒に行きでって。ワシは一目見てコイツらには無理だと分がった。でもこ
の連中がどうしてもって言うもんだがら、それじゃあテストしてみるべと言ってす
ぐにその三人を自分の軽トラに乗せて向かいの山に連れていったんだ。その山って
トラから降ろすと、まずこの山へ登ってみろと言ってやった。すると三人とも夢中
で登っていったんだ。10分くらい登らせてからそろそろいいべと思い、そこから降
りでこい!ただし15秒以内でな!と下から叫んだ。したっけ三人とも下を見だら動
けなくなったんだ。登っていぐ時はいがったんだどもいざ降りる段になって下見だ
ら恐ぐなってしまったんだな。西根さんお願いだからロープ持ってきてもらえねが
って言うもんだからワシがロープを持って登っていって降ろしてやったんだ。やっ
とのことで降りた三人は、あそこから15秒以内で降りるなんて出来るはずがないっ
て言うもんだから、ワシが手本を見せでやると言って実際15秒以内で降りでみせた
んだ。三人ともビックリしてしまってもう連れていけとは言わねがった。西根さん
何とすればあんなに早く降りてこられるですかと聞くもんだがらワシは言ってやっ
た。山さ向きながらだば絶対に早ぐハ降りられね、早ぐ降りるんだったら下を見な
がら飛ぶんだと。あんたがたにとってはほとんど垂直に見えた斜面かもしれないが
ワシにとっちゃあ楽な斜面だ。こういう斜面を降りる時のコツはな、右足、左足と
交互に体重を掛けながら芝(草)を掴んでバランスをとりながら飛ぶんだ。それが
ワシらの言う降りるってことさ。いちいちロープなんか使っていたら熊なんか追っ
ていられねがらな・・・・」 淡々と語ってくれたが、60度の斜面を駆け降りる!
想像することも出来ないその技術と体力に唖然とした。            

マタギは死をかけ、命をやり取りしているから必死で覚えるし、また 子供のころ
から厳しく技術と体力をたたき込まれる。中学生くらいから勢子として大人のあと
を追いかけ、体で覚えていくものだった。今はいろいろな問題があるので難しいが
昔は中学生で一人前だった、通常 勢子から始まるのだがシカリが目をかけ、これ
はという子には最初から鉄砲を持たせることもあったと言う。         

高齢化していくマタギの世界、ほかの何でもそうだが役割を終えたというしか無い
ね、消えていくんじゃないかな・・・と淡々と語る。もうみんな昔のように動けな
いしまたその必要もない。熊撃ちと言うより、生息調査が中心の活動になっていて
今は無線を飛ばして位置の確認をしたり、事故の対処をするようになって来ている
しね, と語る西根さんの家の屋根にも5メートルくらいのアンテナが立っている。 

このままマタギが消滅すれば10年で熊に食われる人が出てくる。マタギが熊を獲る
といってもそんなに自然は甘いものではなく、その年増えた分の何分の一しか獲っ
ていない訳で、マタギがいなくなれば天敵のいない熊はどんどん増えていく・・・
このままでは、それこそ毎年熊に襲われる人が出て来るのもそう遅くはないだろう
と西根さんは予言する。

第一話 完   (秋田弁監修 たまくらさん)