阿仁マタギ物語



第三回 西根稔氏 ナガサを語る。
10月11日 阿仁マタギ西根さんに会いに行った。 西根さんは現役のマタギであ
るとともに又鬼山刃(マタギナガサ)の製作者としても知られている。     
西根さんはにこやかに応対してくれ、その話は多岐に渡り、めくるめくように時間
が過ぎてアッという間に約束の4時になってしまった。 その貴重なマタギ語りを
5回に分けて『阿仁マタギ物語』として掲載する。              

           『阿仁マタギ物語』                 
1996年11月 冬号   第1回  阿仁マタギ西根稔氏 マタギを語る     
1997年1月  春待号 第2回  阿仁マタギ西根稔氏 初めての熊撃ち    
1997年3月  春号  第3回  阿仁マタギ西根稔氏 ナガサを語る     
1997年5月  初夏号 第4回  ●マタギの起源の話 ●岩魚の話      
1997年7月  夏号  第5回  ●熊の交尾の話 ●熊手の話        

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阿仁マタギ 西根稔氏 ナガサを語る

ナガサとは、まるで日本刀のような形の刃物で、これ一本で熊と闘い、解体し、氷
の壁を登り、料理の包丁としても使うという、マタギ用の万能の刃物である。鋭い
切先を持ち、切れ味は抜群、その美しさは持つ者の心を魅了する。       

西根稔氏 56才 西根打刃物製作所三代目正剛の阿仁又鬼山刃(ナガサ)製作者で
ある。 刃物は使える人が作らなければ意味がないし、使い方を知る人が持たなけ
れば意味がないと言う。また、使えない人は使い方を知る様にして欲しいと言う。

ここの部分を直して欲しいとか、こういう風に作って欲しいとか、この刃物を研い
で欲しいとかの注文は一切断わり、自分の作ったナガサを世に送り出すことに専念
している。鞘も秋田杉の目の詰まったものだけを使うという頑固な人である。  

取材の時、その鋭い切先を左手の人さし指に突き立て、右手でクルクルと回して見
せてくれた。我々はハラハラしながら見ていたが本人は平気で、あの鋭い切先で指
先に傷がつくか?と思ったが何ともなかった。刃物を軽く指先で扱う操作技術の奥
技を見せてもらった。このくらい扱えて始めて刃物の価値を生かせるのだと言う。
やって見な、と言われたが、とてもとても出来たものではない。        

2年前、ナガサを買う為に来た時、1時間くらい熊撃ちの話などをしながら、西根さ
んが打ち終わったナガサをヒョイとつまんで、5センチくらい下にあった板に落とす
と トンッと刺さって倒れない! そのバランスの良さと鋭さに驚かされたことが
ある。                                  

昨年、池袋サンシャインで刃物の実演会があった時のこと、ドイツ製刃物の性能を
ウンヌンする人がいたので言ってやったという。あなたはゾリンゲンのナイフで切
った刺身を食べたいと思うか?と、刺身は27センチの柳刃で引くからこそおいしい
んだ、日本の刃物は生活の中で生きているんだ。あまり外国製品を持ち上げるもの
ではない、刃物の使い方という点でも日本は世界に類のない文化を持っているんだ
と・・・                                 

ある映画で、どうしても本物のナガサを使いたいと言う依頼がプロデユーサーから
あった、本来の使い方ではない!と断わったが、どうしてもという熱意に負けて一
丁のナガサを送ったのだが、役者が本物の迫力に負けてビビッてしまい、使えなく
て送り返してきたというエピソードもある。                 
確かにこのナガサには他の刃物にはない迫力がある。阿仁マタギの命とも言うべき
『ナガサ』亡びゆく一つの文化の象徴とも言えるかも知れない。        


     7寸 又鬼山刃 ¥21.000                    
     8寸 又鬼山刃 ¥23.000                    
     7寸 ふくろ又鬼山刃 ¥26.000                 
     8寸 ふくろ又鬼山刃 ¥28.000                 

注文は下記まで                              
     〒018-46 秋田県北秋田郡阿仁町荒瀬              
               西根打刃物制作所  西根正剛        

全国から注文が来ているので、手元に届くまでしばらくかかるかも知れない。取材
中にも東京から注文のお客様が来て、1時間ほど打ち合わせをしていた。皆さんここ
までわざわざ注文しに来るらしい。2年前の自分もそうだった・・・