カワセミを見る



カワセミ写真家、アマチュアカメラマンの桜井さんとカワセミを見る。
12月7日(土)快晴の関越自動車道、花園インターから児玉町へと車は向かう。寄居
から山が近づき、まだ名残りの紅葉が残る秩父の山々が午後の陽射しにやさしい表情
を見せている。今向かっているのは、アマチュアカメラマンでカワセミの写真を撮り
続けている桜井利夫さんの家である。                     
桜井さんは本泉(もといずみ)探鳥会に所属していて野鳥の写真を撮り続ける傍ら、
子供達などにバードウォッチングの手ほどきをしている。本業は印刷会社の営業職で
ある。3年前からカワセミに魅せられて写真を撮り始めたとのこと、今まで何度かそ
の写真を見せてもらう機会があったが、今回はその撮影の現場を見せてもらえる事に
なり、この取材が実現した。果たしてカワセミは本当に見られるのかどうか?神のみ
ぞ知るところである。                            

2時30分 桜井さんの家に到着、なんと周辺が皆「桜井さん」家を探すのに困ったが
桜井さんはにこにこ笑いながら迎えてくれた。本番は明日の朝なのでその場所の下見
に行く。家の前に小山川が流れていて、その川のわずか1kmほど護岸工事されずに残
された場所がその撮影場所である。家からは車で2分ほどの近さだ。聞くと、カワセ
ミだけでなくこの本泉地区の探鳥会で約90種類の野鳥が確認されていると言う。その
中には絶滅が心配されているオオタカもいるとのこと。野鳥・魚のためにもせめてこ
の場所だけは護岸工事しないで自然を残してほしいと桜井さんは言う。      

河原に迷彩柄のテントが張ってある、流れがゆるやかな広がりになっている場所で、
ここに餌捕りにくるカワセミをテントの中から撮影するのだそうだ、意外と鳥とカメ
ラの距離が近いのに驚いた。このテントは鳥に警戒心を与えないために張りっぱなし
で、入口の部分に「野鳥観察のためのテントです 桜井利夫」というプレートが付い
ている。これはオウム真理教事件の時「怪しいテントがある」と通報されて、駐在さ
んの取り調べを受けたことがあって、その駐在さんのアドバイスで付けることにした
のだと言う。こんな所にもあの事件の痕跡があったとは驚きだ。         

4時30分 家に帰り、今までに撮った野鳥の写真を見せてもらう。春夏秋冬のカワセ
ミ、朝昼夕方のカワセミ、そのほかオオタカ・オオルリ・サンコウチョウ・ヤマセミ
・オシドリ・モズ・カモ・セキレイ・シラサギ・カシラダカ・メジロ・カワラヒワな
どなど・・・さまざまな野鳥の姿がカラービュワーの上に浮かび上がる。これだけの
野鳥を撮影する時間を思うと本当に桜井さんの野鳥の写真にかける情熱の程が伝わっ
てくる。                                  

私は鳥の知識があまり無いのだが、こうして見ていると一羽一羽が実に奇麗でバード
ウオッチングをしている人の気持ちが分かるような気がする。来シーズンは渓流に双
眼鏡を持って行くようになるかも知れない。                  

夜は地酒と奥さんの手作り料理に舌鼓を打ち、息子さん娘さんとサッカーの話で盛り
上がり明日の朝が早いというのにすっかり夜更かししてしまった。        

朝6時半起床 寒い、家の中でも気温2度 朝食のあとさっそく着替えて川へ向かう。
外はひたすら寒い、河原は霜で真っ白で底冷えのする寒さが足元からジンジン伝わっ
てくる。そんな中で黙々と桜井さんの作業は続く。テントを整理しカメラをセッティ
ングする。ジッツオの三脚にニコンの500mm望遠レンズを装着し、それにカメラを
セットする。巨大な望遠レンズに一眼レフカメラがやけに小さく見える。     
そしてカワセミの止まる足場作り。手ごろな石を探してきて、カワセミがちょうど止
まりやすい高さに組み上げ、それにレンズの焦点を合わせる。レンズをちょっとでも
動かすとカワセミに気付かれて、逃げられてしまうとのこと。野鳥なら当然といえば
当然な話だが、他の場所に止まったり、カワセミそのものが来なかったり、足を運ん
で空振りする事も多いと言う。今、月に平均6本のフィルムをカワセミの撮影に使っ
ていて休みはほとんど撮影に費やしているそうだ。               
ウ〜〜ン趣味にのめり込むというのはこういう事を言うのかも知れない・・・分かる
ような気がする。                              

8時 セット完了。二人してテントに潜り込みレンズ以外はしっかりと内側からふさ
いでいく。桜井さんが外を見る為の3cmくらいのすき間だけが外の状態を伝えてくれ
る窓になった、私には音しか聞こえない。                   

こうしてテントの中に入ると、以外に鳥の声が多くて大きいことに気付かされる。 
人影が消えただけで野鳥達は警戒心を解くのだという。確かに鳴き声が大きくなって
きたし、すぐ近くで羽音がするようになってきた。               
小声で桜井さんの野鳥の鳴き声解説が始まる、シジュウカラ・キセキレイ・エナガ・
ルリビタキ・ヒヨドリ・コゲラ・アカゲラ・桜井さんの解説に思わず外を見たくなっ
てしまう。人の姿が見えないところでは鳥達はこんなにも饒舌だったのだ。    

ずっと同じ姿勢をしていたら腰が痛くなってきた。なるべく音を立てないように少し
ずつ姿勢を変えるが、桜井さんは身動きもせずじっと外を見続けている。これを休み
ごとに続けているんだから大変なものだ。昨日見せてもらった写真の一枚一枚にこの
苦労があるというのが、こうして同行してみて初めて良く分かった。今日は来るのが
遅いと桜井さんは時計を見る。                        

待つこと一時間半・・ひときわカン高い声が「ピィーッ」っと聞こえた。「来た!」
という桜井さんの声にテントの中の空気がピンと張り詰める。桜井さんがファインダ
ーを覗く「 来てる、見てみな 」サッと替わってファインダーを覗くと500mmの
望遠レンズの向こうにカワセミがいた。こんなに間近に見るのは初めてだ・・「動い
てる」一枚シャッターを切った。ものすごく奇麗でかわいい・・首をかしげたり、身
繕いをしたり・・・ずっと見ていたかったが、撮影という目的のある桜井さんに替わ
る。桜井さんは立て続けに7〜8枚のシヤッターを切った。「行った・・」という声で
ホッとする。                                

取り合えず目的は遂げられた。胸のオレンジと背のコバルトブルーが目に焼き付いて
いる・・・宝石のような鳥だった。                      

「40分位すればまた来るよ 」とのことで、桜井さんは次の撮影準備を始める。私は
その間周辺に生えているクレソンを袋いっぱいに摘んだ。これをお浸しにするとメチ
ャクチャ旨いのだ。ここは湧き水が多いのであちこちにクレソンが生えている、地元
の人は見向きもしないのだそうだ、もったいないことだ。春には河原一面に白い花を
つけたクレソンがとてもきれいだという。                   

30分後またカワセミはやって来たが、狙いと違う場所に止まり、水音とともにアッと
いう間に飛び去ってしまった。「しまった・・変なとこに止まって、行っちゃった」
二回目は何も撮れずに終わってしまった。こんな事も多いので気にはならないと言う
がじっと待って二時間で二回のチャンス、それもファインダーに入る確率は少ない。
その数少ないチャンスで構図や光の具合が良い写真を撮る・・大変なことだ。世に出
ている野鳥の写真はこうして貴重な時間を使って撮られている。         

桜井さんは自分の狙い通りの写真が撮れたら個展なり写真集なりにまとめたいと言っ
ているが、まだまだ納得出来る写真が少ないと言う。まだまだ当分の間早朝の川通い
が続きそうである。個展が行われる日が楽しみだ、がんばって欲しい。      
 
桜井さんが撮った2枚のカワセミ写真、狙いどころが違うね。