岩井渓一郎インタビュー



【フライビギナーに伝えたいこと】

岩井渓一郎さんといえばフライフィッシャーにとって神様のような存在である。その
ロングティペットリーダーを駆使して尺イワナや尺ヤマメをバンバン釣るビデオに興
奮した人は数知れないはずだ。また、直接岩井スクールでその分かりやすいレクチャ
ーを受けた人も多い。季刊kurooはその岩井渓一郎さんに3時間のロングインタビュー
をさせていただいた。トッププロに肉薄するにはkurooではいささか力不足とは思っ
たが、何とか雑誌やビデオでは見られない岩井さんの素顔を伝えられるインタビュー
が出来たと思う。今号より3回に分けてその内容を掲載する。稚拙なインタビューだ
が、フライフィッシングのエッセンスをそこから抽出していただければうれしい。 

    1、フライビギナーに・・  (1月 春待ち号)            
    2、ドライフライの釣り   (3月 春号)              
    3、タックルシステムについて(5月 初夏号)             


岩井渓一郎インタビュー その1

【フライビギナーに伝えたいこと】

11月28日午後2時、岩井さんから電話が入る。「いま恵比寿の駅前なんだけど・・」
急いで駅に向かう。岩井さんはシャツの上にフリースのジャケットをはおるというラ
フなスタイルで駅前に立っていた。                      
kuroo「どうも、忙しいところ すいません・・」               
岩井「やあ 久しぶり、いまオフだからだいじょうぶだよ。自転車で来ようかと思っ
   たんだけど電車にしちゃった。ウチここから近いんだよ」         

久しぶりに会う岩井さんは相変わらず元気だ、会社で話を伺うことにして並んで歩く

kuroo「オフといっても海外に行く予定は無いんですか?」          
岩井「うん、2月ころニュージーランドを考えてたんだけどね、どうなるかな」 
kuroo「スクールはいつ頃から始まるんですか?」              
岩井「3月から始まるよ、もう目一杯だね、休みが無くて大変だよ・・」    

会社でしばらく雑談。インターネットのホームページを見てみたいという事になり
いろいろなホームページを見る。釣りやフライ関連のホームページを興味深く見て
いた。集中して見ていたら、目が痛くなってきたということで、場所を応接に変え
る。トッププロは目が命、日頃の心がけが違う。そこで目的のインタビューに入る
ことにした。                               

kuroo「最初に伺いたかったのは【岩井渓一郎】というプロネームのいきさつを」 
岩井「エッ そんな話・・昔釣りマガジンの編集をやってた頃必要になって付けただ
   けだけど、いきさつなんてねえ・・本名ってことにしとこうよ 」     
kuroo「スミマセン堅い話で、それじゃ柔らかいのを、秋田の友人からの情報による
    とキャスティングは奥さんの方が上手なのではないかというような話がある
    のですが真相はどうなんですか?」                  
岩井「ヤダなあ、うちのカミさんが下の子の手が離れてきたんでフライを始めたいと
   言い出したのは去年の3月のことでね、そういえばこれビギナーのレッスンに
   通じることが多いと思うんだけどね、まず公園で10ヤードのフォルスキャスト
   を100回出来るようになれって言ったのさ。一回でも下に付けたら最初からや
   り直すという条件でね、それが出来たら次を教えるからってね。それが主婦っ
   て時間があるから世田谷公園で一週間振り続けて出来るようになった訳 」 

kuroo「えっ一週間で100回のフォルスキャストが出来るようになったんですか!」
岩井「そりゃァ教え方が違うもん 」                     
kuroo「おそれいりました、私も教えてもらいたいものです」          
岩井「それでね、次にやらせたのが、5m、7m、10mの位置に50センチの円を描い
   て、3回のキャストでその円の中にフライを投げる練習。これが1カ月くらい
   かかったかな、ほとんど入るようになったので4月の終わりに千曲川に連れて
   行った訳さ、もちろん釣りで行くのは初めてのことだよね。それで、ライズ
   を探して確認させて、『おまえ、あのライズの1m上流にフライを投げられる
   か?』って聞いたら、大丈夫だって言うんだね、ティペットリーダーは最初
   から16フィートを使っているから違和感は無い訳だ。 で、カミさんが釣っ
   たのが30cmのイワナ。その日一日で尺イワナ3本と24〜5cmのイワナ・ヤマ
   メ合わせて10尾くらい釣ったのかな・・・スゴイよね 」        

kuroo「スゴイ、スゴイ!初めての釣りでそれだけ釣れたらハマりますね〜」   
岩井「フライってさ、本当に釣れるよね」                   
kuroo「イヤ、それは教え方が違うんでしょう。誰でもそう釣れるもんじゃないと思
    いますが・・・今の話にもありましたが、初心者は何をキチンと覚えるべき
    なんでしょうか?」                         
岩井「う〜ん・・釣れるという事の80%はプレゼンテーションだね、フライの良し悪
   しとかアワセだとかは、残りの20%の中でのことだと思うよ。岩井スクールで
   やるのも半日はプレゼンテーションだけだもの。それをきちんとマスターすれ
   ばいいと思うよ」                           
kuroo「渓流を例にとって具体的に言うとどういうことですか?」        
岩井「渓流は流れがあるからドラグがかかる。そのドラグがかかりにくい長さのティ
   ペットでフライを魚のいる場所に落とせば、それも30cmの広さのスペースに
   落とせば、24番のミッジでもハッキリ見えるから楽に釣れるんだよね。岩井
   流のプレゼンテーションにはやり方があって、それをスクールで教えているん
   だけど、どうも言葉ではうまく言えないんだ。14〜16フィートだったら誰で
   も投げられるようになると思うよ」                   

kuroo「誰でも16フィートが投げられるようになるんですか?」         
岩井「最初からそれだけ使っていればいいんだよ、慣れるよ。長いティペットがいい
   のは分かっているんだから、それを使えばいいだけの事でしょ。だいたい魚が
   何でフライをニセの餌だと見破るんだと思う?」             
kuroo「えっそれはハリが付いているし・・・」                
岩井「そこが大きな勘違いなんだよ。いい、魚はハリを知らないんだよ、自分がそう
   思っているだけなんだよ。餌釣りだってハリが付いているけど飲まれることが
   あるだろ、フライだって飲まれるんだよ。 あれは、糸の抵抗があるから異常
   を感じて口から出すだけの事なんだよ。ドラグフリーで流せて、ティペットの
   抵抗が無ければ魚は確実に釣れるものなのさ。              
   だからドライフライは遅い合わせでいい、早合わせは合わせ切れになる。5X
  (0.8号)でも早合わせだと切られる。テンカラは別だよ、テンカラはラインを
   ピンと張っている訳だから、即 合わせないと魚はかからない。渓流でいえば
   50cmのレインボーを8X(0.3号)で釣ったことがある、アメリカでの話だけ
   どね。そのくらい細いティペットでも充分釣れる。魚が出たのを確認して合わ
   せてちょうどいいくらいかな・・」                   

kuroo「ところで、移動する時その長いテイペットとリーダーを岩井さんの場合、ラ
    インをどのくらい出してフォルスキャストしてるんですか?」      
岩井「ライン4〜5ヤードくらいかな、歩きながらポイントを探して、ポイントが見つ
   かったところで止まってラインの長さを調節するようにしているよ。ボクの場
   合、速いよ、次に行くのが・・」                    

岩井さんの言葉の端はしに『プレゼンテーション』という言葉が出てくる。突き詰め
るとフライフィッシングのテクニックはこれに尽きるのではないかという気分になる
細心のストーキング、正確なキャスティング、そしてメンディング、どれが欠けても
プレゼンテーションにはならない。自分の釣りを思い返してみて反省すべき点の多い
ことに改めて気付いた。それにしても10m先の30cmの円の中に24番のミッジを投
げる。・・・・ウ〜〜ン・・・道は遠い・・・・。               

第一話 完                                 


               お知らせ                 
10月に出版された初心者向けの本。        
岩井渓一郎の渓流のフライフィッシング                  
         『まず一尾と出会うために!』  廣済堂出版¥1500   
  今日、岩井さんに話してもらったようなエッセンスがちりばめられた、初心者の
ためのフライフィッシングの本です。ぜひご一読下さい。