九州一の清流 川辺川での釣り

私は川辺川ダム建設反対の意思表示をしている。その川辺川の上流で釣りをした。


九州一の清流 川辺川での釣り                          

3月15日、朝7時に宿をチェックアウトし、琥珀さんの車で甲佐(こうさ)町の勝三郎
さんの家に行く。勝三郎さんの車に乗り換え、コンビニで食料を調達し川辺川を目指す。
砥用(ともち)町から山道に入る。二本杉峠に登っていく道は細く険しい、九十九折りの
急坂である。その昔、山本素石さんが五家荘(ごかのしょう)へと抜けるのにこの道を走
り、あまりの険しさと寂しさに恐くなってしまったという峠道である。        

「ほら、そこにブナん木がある」と、琥珀さんが指さす。何とこの九州の山にブナの木が
あるのだ。聞けば東北のブナよりも葉が小さく、こじんまりとしたブナなのだそうだ。 
下の照葉樹林帯からいきなり頂上にブナ帯が出てくる。九州の山というのはずいぶん幅の
広い樹林帯をかかえているものだ。不思議な峠だ。                 

二本杉峠を下ったところが広い広い五家荘(ごかのしょう)である。 その昔、町で犯罪
を犯した者が五家荘に逃げ込んだら警察は追わなかったらしい。五家荘では村人の協力な
しに生き延びることは出来なかったし、村人は排他的だった。犯罪者は心を入れ替えて村
に溶け込むか、再度町に逃げ帰るしかなかったのだ。ここは落人伝説の村である。   

五家荘に入ってすぐに道が突然立派になる。こんな山の中に二車線のハイウエイのような
道路があるのだ。運転をしながら勝三郎さんが言う「これもダム補償の一部なんですよ」
周辺整備という名の補償がこんな形で使われている。                

「こんな道は必要ない。山をこれだけ削って、川にダメージを与えて、いったい何を考え
ているんだか・・・・」勝三郎さんの言葉が荒くなる。工事の方法や、工事発注のやり方
など、地元の人だけに目につく事が多いのだそうだ。「ダムなんかいらない!」と叫ぶ声
が車内に響く。                                 

川辺川の上流は支流が数多いのだが、われわれはその本流を釣る事にした。川を渡る橋の
上から見ると、大きな淵の深いみどり色が目に飛び込んできた。「深か〜、5〜6メート
ルはあるバイ」琥珀さんが溜息まじりにつぶやく。それにしてもこの水の奇麗さはどうだ
水底の石の一つ一つがハッキリと見える。                     

「もう少し上に行きましょう」と勝三郎さんが言う。しばらく走って広い場所に車を止め
る。「この辺だと思うんですよ」と言う。川はどうやらはるか下の方らしい。聞けば、こ
の急斜面を降りていくのだそうだ(もちろん道はない)ゲゲ・・大丈夫かなあ???  

釣りの仕度をはじめる。こんな事もあろうかとパックロッドを持ってきたのが大正解だっ
た。さっそくケースから引っぱり出してベストの背中に押し込む。手袋もあるし、準備は
万全だ。勝三郎さんは万一のためなどと言いながらロープの束を肩がらみにかけている。
ギョギョッ・・そんなに厳しいの?                        

川に降りるまでが大変だった。照葉樹の密生した急斜面を木にぶら下がるように慎重に降
りて行く。足を滑らせたら大ケガをするかも知れない。パックロッドなので両手が使える
のが嬉しい。何度も下の様子を見ながら慎重に降りる。降りたところが大きな淵の上だっ
たりしたらシャレにならないのだ。                        


川は透明な流れを白い岩の間に走らせていた。                   

白い岩の間に清烈な流れが走る。勝三郎さんが覗き込む。 この水色はどうだ!鮮やかな碧色が水の透明度を示す。

両側の急斜面にもかかわらず、川床は広くキャスティングも問題ないし、遡行も楽に出来
そうだ。ワクワクしながらロッドを繋ぎ、ラインをガイドに通す。パイロットフライはエ
ルクヘアカディス18番でやろう。琥珀さんはもうロッドを振っている。       

三人で交互に先行しながらロッドを振る。岩を越えるたびにプールが展開する理想的な渓
相で、水の色も申し分ない。あまりの美しさにしばしばロッドを振るのを休んで佇んでし
まう。ゴミなんて何も落ちていない。                       

2時間ほど釣り上がったが、三人ともまったくアタリがない。不思議だ、これだけの川に
魚がいないはずがない。虫も少しずつ飛び始めたが魚は反応してくれない。フライをあれ
これ変えてみるがまったく反応なし、三人とも首をかしげる。            

それは突然だった。大きな淵のあたまを通り抜けようとした時だった、いきなり魚が跳ね
たのだ。パシャッ・・・さっと身をかがめてロッドを持ち直し、下流から歩いてきた二人
に「シッ 今そこで跳ねた!」と言う。二人は遠巻きに上流へ行き、そのポイントを私に
譲ってくれた。しばらく様子を見て、そしてフライをキャスト・・・ライズのあった場所
をフライが流れる・・・バシャッと水面がはじけた!さっとロッドを立てるが空振り。 
フライは上の木の枝に絡み付いてしまった。「 あ〜〜〜、しまったあ〜〜〜」悔しい。

粘ったがそこで釣ることは出来ず、上流へ二人を追った。二人はすぐ上の淵の横で並んで
座っていた。声をかけると琥珀さんがニコニコ笑いながら下を指さす。見ると水につけた
ネットの中になんと大きなヤマメがいるではないか!「うわあ、やったねえ〜」川辺川の
初ヤマメだ。                                  

琥珀さんがCDCダン18番で釣った川辺川の良型ヤマメ。 緑色の濃い、宝石のようなヤマメに大感激でした。

緑色の濃い背中、クリーム色に近いボディにくっきりとパーマークが入り、測線には朱色
の線がハケで掃いたようにサッと入っている。ひれの根元はオレンジ色に彩られた鮮やか
なヤマメである。きれいな川にふさわしい奇麗なヤマメである。琥珀さんのニッコニコの
笑顔と記念写真を撮り、琥珀さんの手で川辺川に戻された。             

「凄かばぃた、ボコボコ跳よって・・・・ま〜だおるばいた。」琥珀さんの声がうわずっ
ている。さっそくロッドを振る。淵の流れ込みのところでバシャッとフライにアタック!
すかさず合わせると心地よい手応えが手に伝わってくる。「やったあ〜よしよし」ライン
をたぐり、ネットに納める。先程の琥珀さんのヤマメと同じ色のひれがピンとしたヤマメ
である。二人に見せると大喜び。                         

kurooにも釣れました。川辺川の宝石のようなヤマメが。 にっこり笑ったこの顔を見て下さい。よかったよかった。

さらに上の淵へ、どうやら瀬には魚はいない、淵でライズしているようだ。岩の陰からヤ
マメが定位しているのが見える。キャストするが思ったところにいかず、ヤマメはスッと
消えてしまった。琥珀さんが叫ぶ「太かぁ、ふと〜かヤマメがおったバイ、尺はあった」
やはり、岩の下にスゥ〜っと入っていったらしい。その上の淵でバシャッとライズ琥珀さ
んと勝三郎さんが狙うが出ない・・・粘るが・・・出ない。             

さらに上流、琥珀さんと私はとんでもない光景に出くわす。小さい淵で盛んにヤマメがラ
イズしている。ライズというより飛び跳ねているのだ。7〜8尾が交互にバシャンバシャ
ンやっているのだ。所かまわず水しぶきが立ち、ライズの嵐である。         

二人でキャストする。琥珀さんに一回、私に二回出たが合わせられなかった。そうこうし
ているうちに、あの激しかったライズは嘘のように止まってしまった。「何ということだ
情けない・・・」キャスティングを練習しなければと痛切に思った。勝三郎さんは「この
川ではフォルスキャストは1回が限度だね」という。残念、ヘタクソには悔しい結果だ。

ライズライズの連続ですっかり遅くなってしまって、もう2時半になってしまったので納
竿することにした。最後の記念写真を撮って、この素晴らしい川辺川に別れを告げる。 

お世話になりました。琥珀さんと勝三郎さんです。 琥珀さんとkurooです。

さあ、道路までこの急斜面を登らなくてはならない。杉林の中、道もないところをズルズ
ルしながら一気に登る。ゼイゼイ言いながら100メートル以上の直登。体力の限界を感
じるような過酷な登りが続く。道路に出たときは三人とも声も出ないありさまだった。 

ひと休みしてから、車に向かって道を下る。フィッシャーマンズハイとでも言ったらいい
のか、とても気分がいい。素晴らしい景色に包まれて、ヤマメの競演を思い出しながら歩
く。「いやあ・・良かったねえ」そんな言葉に自然に口から出てくる。        

どこまでも透明な川辺川の流れ。渓流釣り師の宝箱。 この深い山からあの透明な水が流れ出す。九州の奥座敷。

  ひたすら 川辺川に感謝。美しい川でした。美しいヤマメでした。是非もう一度行ってみ
たい川になりました。琥珀さん勝三郎さんありがとうございました。         



               追記

空港に向かう時間がギリギリになってしまったので、下流の五木村は通り抜けるだけにな
ってしまった。車で走りながら、流域のいたるところで道路工事に出会う。すべてダム関
連の工事なのだ。こうして周辺から既成事実を積み上げて本体工事へと結びつける。大き
な権力はこうして思い通りに川を壊していく。                   

五木村を走り抜けると道が突然高台へと登る。そこには、ダムに家を奪われる人が新しい
家を建てた集落がある。そこに整然と建てられたダム御殿(豪華な家ばかり)が、下の集
落の風情とあまりにかけ離れており、人間の欲望だとか、巨大な利権だとか、補償金だと
か、様々なものを連想させてくれた。                       

川辺川は九州一の清流だ。清冽な流れは何の障害もなく球磨川に注ぎ、海へと至るはずだ
った。今、川辺川は様々な工事で荒れている。そしてダムが出来ると川辺川は死ぬ。ダム
の下流は川ではなくなるのだ。                          

すべての釣り人はダム反対を叫ぶべきである。渓流・清流・本流・海、すべてがつながっ
て流れているから魚が生きられる。釣り人は川の環境にもっともっと関心を待つべきだ。
川の環境を破壊する何ものも許してはいけないのだ。子供達の釣りを守るために。