九州で宝石のような魚に会う

九州熊本、脊梁山地から流れる川の釣り


3月13日、飛行機は春霞の中を熊本空港に向かって高度を下げていく。多くのビニー
ルハウスがまるで水を張った水田が太陽の光を反射するように、春の光をキラキラと反
射させている。                                

いよいよである。初めて見る九州の地、清正公のお膝元「熊本」に着くのである。ワク
ワクする気持ちを抑えきれない、どんな出会い・どんな魚・どんな味が待っているのだ
ろうか?                                   

空港には琥珀さんと勝三郎さんHさんが出迎えてくれた。勝三郎さんは琥珀さんの釣り
友達で、白川や川辺川を下見してきてくれたのだ。今回はガイド役として同行してもら
うことになっている。琥珀さんのレガシィには同僚のHさんが乗り、私は勝三郎さんの
車に乗る。挨拶もそこそこにすぐ空港を出発し、二台の車は国道57号線を白水(はく
すい)村目指して走る。目的地は阿蘇白川である。                

阿蘇の外輪山を抜け、何万年も前に出来たカルデラの内側に入る。勝三郎さんがいろい
ろ説明してくれるのだが、カルデラの規模があまりに巨大で何ともカルデラという実感
が湧かない。視界に入らないほどの広さが爆発で吹っ飛ぶ光景など想像出来るはずもな
い。地球のエネルギーの巨大さを思うのみである。                

右側の外輪山が北向山、照葉樹の原生林があるという。山の斜面はなるほど照葉樹がこ
んもりと繁り、山肌をおおっている。映画「もののけ姫」の一場面のような景色が広が
っているのだろうと想像する。九州に来たんだ・・・という実感が湧いてくる。   

白水村の白川に着いた。事前に聞いていた通り、白川は工事の泥が流れ込み泥川と化し
ている。田園の中をゆったりと流れる白川の向こうに烏帽子岳を始めとする阿蘇山が柔
らかな草肌を横たえている。この川の横に立つと何だか空が広い。         

阿蘇白川はビデオと同じ風景を目の前に広げていた。 田園の中をゆったりと流れる白川だが水質に問題か?

白く濁った白川で一人のフライフィッシャーがロッドを振っている。橋の上からそれを
眺めていたが、川底の見えない川、そこかしこにヌルが見える川で竿を出す気にはなれ
なかった。ビデオで見て、思い描いていたイメージとは随分違う川の状態に正直とまど
っていた。ロケーションは最高なのだが・・・・                 

四人はひとまず腹ごしらえをという事で、近くの「味千ラーメン」に入る。琥珀さんが
九州らしいラーメンを食べさせたいという事で、全員ラーメン定食を注文する。こって
りとしたとんこつラーメンに餃子とライスが付いている。見た目よりもあっさりとした
ラーメンを食べながらどの川に行くかを相談する。勝三郎さんが緑川に行こうと言う。
我々に異存があろうはずもなく、そそくさと食べ終わり再びドライブとなる。    

白水村から高森町・蘇陽(そよう)町・清和村と走る長いコースである。さらに細い道
をウネウネと走り、緑川に着く。川沿いに車を止め四人はすぐに釣り仕度に入る。私と
勝三郎さんが「琥珀さんもフライでやるんでしょ」の声に琥珀さんもしぶしぶフライロ
ッドを取り出す。琥珀さんはまだフライでの釣果がないのだ。私は久しぶりのアイズス
リーの感触に気持ちが先走り気味で、手がついていかないでモタモタしてしまう。  

琥珀さんと二人で川を見ながら下っていく。良さそうなところがあったのでロッドを振
るが反応は無い。しばらくやっていたら、下流から「ライズがあるよ」と琥珀さんが呼
ぶので行く。流心に大きな石があり、その下の弛みでライズしたらしい。様子をみてい
たら、すぐ下のポイントで勝三郎さんが鮮やかにヤマメを掛けた。「お見事!」緑川の
初ヤマメだ。                                 

その弛みでやっとライズ!、慎重にエルクヘアカディス18番をキャストする。バシャ
ッと水がはじけバッと合わせたがラインは空しく宙を漂う。合わせ切れか?いやフライ
は付いている、早かったんだ。「う〜〜ん残念」と二人が後ろで言う「早かったね」と
勝三郎さん。                                 

琥珀さんが慣れない手つきでフライロッドを振る。 勝三郎さんは余裕の表情で川を眺めている。

上流へ釣り上がる。車を止めておいた場所の下、ゆるやかな流れの中程に沈み石があり
良い感じの深さのポイントがあった。フライを流すと一投目にいきなりガバッと魚が出
た。先程の早合わせが頭にあり、一呼吸おいて合わせたが再びラインは宙に漂った。 
「う〜〜ん、遅かったかなあ・・・」と勝三郎さん。               

フライを交換し、しばらく時間を置いて再びキャスト。何と嬉しいことに再度のアタッ
ク。今度はドンピシャのタイミングで合い、心地よい手応えがロッドに伝わってくる。
バシャバシャとはねるヤマメを寄せてネットに納める。九州の初ヤマメであるヤッタね
緑色の濃い背中にくっきりとしたパーマーク、測線に朱が入った鮮やかな魚体である。
緑川のヒレピン20センチを手に記念写真を撮る。これは今シーズン初のヤマメでもあ
るのだ。琥珀さんも勝三郎さんも祝福してくれる、素直に嬉しい。         

フラッシュで白くなったが緑色の濃いきれいなヤマメだ。 今シーズン初釣果に思わずニッコリ。記念すべき一尾。

上流に行き勝三郎さんが「この瀬には必ずいます」と断言する瀬に出た。本命の流れに
行く前に、手前の小さい流れにフライを流すとパシャッと小さい水しぶきが上がる。す
かさず合わせたフライには15センチほどの可愛いヤマメが釣れてきた。本日2尾目で
ある、めでたい。写真を撮ってリリース。                    

本命の流れに琥珀さんが向かう。CDCダンを流れにのせる、ピックアップ寸前にバシャ
とヤマメがライズ!「釣れた〜〜〜」琥珀さんが叫ぶ。私はカメラを持って駆け寄る。
「フライで初ヤマメだあ〜」破顔一笑、大満足の琥珀さん。一生の記念になる場面の目
撃者となることが出来た。ニッコニコの琥珀さんとヒレピンヤマメの記念写真を撮る。

琥珀さんのCDCダンにヒット!必死にラインをたぐる。 フライでの記念すべき第一号。琥珀さん思わずニッコリ。

緑川の上流へ行く。大堰堤の上を釣るがアタリは無かった。わずかに餌釣りのHさんが
小さいのをかけたのにとどまった。この場所の渓相は本当に素晴らしい。魚のアタリこ
そ無かったが、条件さえ合えばきっと天国のような釣りが楽しめるに違いない。花崗岩
の間を清冽な流れが静かに力強く流れる。新緑や紅葉の頃は一幅の絵画のようになるに
違いない。                                  

さらに上流の小学校のところから最後の入渓、こちらも全く反応なし。暗くなるまでロ
ッドを振り、フライが見えなくなるまでやったがムダだった。やはり、昼すぎのあの一
時だけだったようだ。                             

これが宝石のようなヤマメを育てる緑川の流れ。 緑川の上流の流れ、岩と水の絶妙なコントラスト。

今日の宿は琥珀さんが紹介してくれた旅館「山翠」。通潤橋(つうじゅんきょう)を横
に見て、細い道をうねうねと曲がりながら丘を越えたところにその隠れ家のような宿は
あった。こんなところにこんなしゃれた宿が・・・という不思議な雰囲気の宿である。

琥珀さん勝三郎さんHさんと私、それと明日お世話になる矢部愛林(有)の西山さんの5
人で夜の宴会が始まった。今日の釣りの話・山の話・酒の話・熊本の食べ物の話、さま
ざまな話が飛び交い、しし鍋・田ぜり・ふきのとうなどの季節の味が腹に収まる。  
まぼろしの酒ワインボトルの日本酒、燗で飲む日本酒が5人の腹に消えていく。私の意
識はプツンプツンと切れはじめている。とてもじゃないが九州男児と酒を張り合える程
強くはないが、がんばろう・・・・・                      


九州の熊本、矢部の夜は更けていく。